バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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クックタ kukkuṭa कुक्कुट【伊藤武のちょこっとサンスクリット語】



「十二支の動物をサンスクリットで」の、残り3つです。

酉(とり/ニワトリ)は、クックタ(kukkuṭa)。しかしカナで書くと、クックラのほうが近いかもしれません。kukkuは、クックッ、コッコッという鳴き声、-ṭaはこのトリの神聖さを示しています。-ṭaの字義は「大地」「誓い」。かつて鶏は大地の鳥だったのです。コケコッコーという勇ましい声で太陽を呼び起こし、人々に安らぎを与え、時刻を教えました。卵は薬として珍重され、肉は宴を彩りました。
野鶏(やけい)は、インドやタイの田舎でしばしば目にしましたが、その鳴き声はコケコッ。コーがないから、拍子抜けしてしまいます。また、多くは尾羽根が下に垂れている。インダス文明時代、ニワトリはすでに飼われていましたが、人々はおそらく野鶏のなかでも、コケコッコーと鳴いて、尾羽根がピンと立った見栄えのいいやつを選んで、家禽化したのでしょう。
バフチャラジーというヒジュラ(去勢者または両性具有者)の女神が、ニワトリを乗り物にしています。ニワトリのポーズは、ヨーガにもカラリパヤットにもあります。
なお、こんにちのヒンディー語では、ニワトリはムルガーないしはムルギーですが(ムルギー・カリー、タンドゥリー・ムルギーなどという)、これはペルシア系の言葉です。

戌(いぬ)は、シュワン(śvan)。インドの犬は「ワンワン」ではなく、「シュワンシュワン」と鳴くのでしょうね。
犬は、いうまでもなく、もっとも早くに家畜化された動物。愛玩用、狩猟用、一部の国では食用にと特殊化していき、たった1つの種(しゅ)とは思えないくらい姿も大きさも多様化していますが、インドの犬の種類は少なく、ほとんどはその直接の先祖であるジャッカル(梵śṛgāla、英jackalの語源)やオオカミ(梵vṛka)の姿を色濃くとどめています。
そして、インドでは、犬は不吉な、忌み嫌われる動物です。これは、犬が、人間の不浄——排泄物や尸林(しりん)に放置された屍体を食べるからなのでしょう。クシャトリヤ(武士カースト)は狩猟を好みましたが、かれらは獲物を追うのに、犬ではなく、チーター(梵citraka、英cheetahの語源)を用いました。ゆえに、チーターの和名は狩猟豹(しゅりょうひょう)です。犬を使うのは、森に住む狩猟部族か不可触民に限られました。
神話では、死の神ヤマと、シヴァ神の恐ろしい化身バイラヴァが、犬を、乗り物にするのではなく、連れ歩いています。犬は、死のシンボルなのです。
愛犬家はいたたまれない気持ちになるかもしれません。もっとも最近では、価値観の欧米化にともない、都市部では洋犬をペットして飼うのが流行っているようです。
ヨーガに犬のポーズ(śvan-āsana)があり、連続アーサナのスーリヤ・ナマスカーラ(太陽礼拝)では2度にわたって行われます。最初のポーズは尸林で屍体をむさぼる「死のシンボル」としての犬ですが、次は一転して、沢山の仔を産む「生のシンボル」としての犬に変わります。

亥(い/イノシシ)は、ヴァラーハまたはヴァーラーハ(varāha/vārāha)。√var(求める)の派生語。あの特徴的な牙で地面を掘り起こし、エサを求める姿に由来するのでしょう。かれらがもっとも好むヤマイモ(梵āruka)は、ヴァーラーハ・カンダ(vārāha-kanda、猪芋)とも呼ばれ、アーユルヴェーダにおいても強壮・強精剤とされています。バザールを覗くと、トロロにしてかっ込みたくなるような見事な猪芋がごろんとしていますが、インドでは問答無用でカレーです。
いろんな方のインド旅行記に、「大都会にイノシシがいた」などと書かれているのを目にしますが、町や村をうろちょろしているのは、猪ではなく、人に飼われる豚(梵sūkara)。見た目はたしかにイノシシですが、本物の猪は鼻っツラがもっと長い。男たちが♂の仔をつかまえ、カミソリで去勢しているのを見たことがありますから、ちゃんと管理されているのです。大事なところをカットされた仔豚は、ブヒブヒと抗議の悲鳴をあげながら、それでも元気に駆け去っていきました。
要するに、インドの豚は、犬同様に、先祖の猪からあまり姿を変えておらず、また一般には不浄視されており、食用とするのはシュードラ以下の下層階級、およびキリスト教徒に限定されています。われわれは、キリスト教徒の多いゴアにでも行かぬかぎり、インドでポークカレーを味わうことはできません。
が、野生の猪は、逆に神聖視されています。しばしば虎よりも強いといわれ、狩猟好きのクシャトリヤにとっても恰好の獲物。豚を食わぬ彼らも、ボアカレーには舌鼓を打ちます。
ヴィシュヌ神の化身(アヴァターラ)のひとつがヴァラーハ(猪神)で、海に沈んだ大地を牙にひっかけて持ち上げるのでした。また、♀のヴァーラーヒーも豊饒女神として、独自の信仰を集めています。後期密教では、ヴァジュラ・ヴァーラーヒー(金剛猪女)が仏教ハタ・ヨーガをつかさどる女神として崇拝されました。
カラリパヤットに、猪のポーズ(ヴァラーハ・ヴァディヴ)があります。
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