バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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ナーガ nāga नाग 【伊藤武のちょこっとサンスクリット語】


「十二支の動物をサンスクリットで」の後半です。

巳(み)、すなわち蛇をあらわす語はたくさんありますが、もっとも使用されるのは、ご存知ナーガ(nāga)。
na(否)-√gam(行く)で「[肢がないので]行かざるもの」、あるいは逆に、na(否)-a(否)-√gam(行く)で「[肢がないのに]不動にあらざるもの」などと語源解釈されていますが、本当のところは定かではありません。
わかることは、nāgaは音韻的に英語のsnakeと一致することから、インド・ヨーロッパ語族の共通祖語にまでさかのぼる、非常に古い言葉である、ということです。そして、古い語は往々にして語源不明のものが多いのですが、そうした語は霊的な存在と関連づけられていることもまた多いのです。ナーガ信仰やインド神話におけるナーガについては、今さら述べるまでもないでしょう。
蛇はサルパ(sarpa)ともいいます。これも英語のserpentと一致しますが、サルパの場合には√sṛp(這う)という明確な語根が与えられています。武術のカラリパヤットに、サルパ・ヴァディヴ(蛇のポーズ)があります。
ヨーガの蛇のポーズは、ブジャンガ・アーサナ。ブジャンガ(bhujaṅga)は、√bhuj(曲げる)と√gam(行く)を合成した言葉で、「曲がって行くもの>蛇行するもの」。酔っぱらいもブジャンガと呼ばれるかもしれません。

午(うま)は、アシュワ(aśva)。√aś(貫く/浸透する/達する/得る)に派生するこの言葉は、プラーナを暗喩する語でもあります。馬の特徴は「非常に速いこと」で、それが「風」としてのプラーナを連想させたのでしょう。
馬はハヤ(haya)とも称されます。「風/プラーナ(ha)が行く(ya)」と解釈することができますが、日本語の「速い」と似ていて、面白いですね。かような馬は、ヴェーダ時代には、神や王権の象徴として神聖視され、名馬を1年間自由に走らせてから犠牲に付すアシュワメーダ(aśva-medha;馬祀祭)が行われました。『リグ・ヴェーダ』に、生け贄にした馬を解体する詩があり、「34本の肋骨をもつもの」と歌われています(Ⅰ‐一六二‐18)。
かつては「インドに馬を持ち込んだのはアーリヤ人で、インダス文明に馬はいなかった」といわれ、わたしもそのように書いたこともありました。しかし、実際には、インダス文明の遺跡からは、馬の骨はふつうに出土しているようです。そして、中央アジアの馬の肋骨が18対(36本)であるのに対し、インダス馬のそれは17対(34本)。つまり、「ヴェーダの馬は、アーリヤ人とともにやってきた外来種ではなく、インド土着の馬であった」ということになります。
インド神話には、馬(haya)の頭(grīva;首)をもった神、ハヤグリーヴァが登場します。もともとは、恐ろしい悪魔だったのですが、ヴィシュヌ神に滅ぼされ、その後、ヴィシュヌ自身がハヤグリーヴァに化身するようになりました。ハヤグリーヴァは、馬頭観音(ばとうかんのん)として、仏教世界でも活躍します。
馬にちなんだ行法としては、カラリパヤットのアシュワ・ヴァディヴ(馬のポーズ)や、ヨーガのアシュウィニー・ムドラー(牝馬のムドラー)があります。

申(さる)は、カピ(kapi)、ヴァーナラ(vānara)など。
カピは、√kap(行く)+√i(行く)で、「すばしっこく動きまわるもの」。ブッダを生んだシャカ族の都カピラヴァストゥは、「猿(kapi)の地(la)の町(vastu)」と解することができます。猿がたくさん棲んでいたのかもしれません。
ヴァーナラは、「森に棲む(vāna)動物(ra)」ですが、「風(<√vā吹く)の人/神(nara)」とする説もあります。猿神ハヌマーンが風神ヴァーユの息子とされるのも、そうした語源解釈に由来するのでしょう。
この好奇心旺盛で、人間に似た動物は、しばしば人の移ろいやすい心(manas)の象徴として用いられます。しかし、猿(のごとく動きまわる心をもった人間)も、修行しだいでハヌマーンのごとき立派な猿になることができる!
ハヌマーンにちなんだヨーガのポーズに、ハヌマーン・アーサナ(Hanumānāsana)、アンジャネーヤ・アーサナ(Añjaneyāsana)があります。アンジャネーヤは、「雌猿アンジャナーの息子」の意で、ハヌマーンの異名です。

長くなってしまいました。残り3つ——酉(とり)、戌(いぬ)、亥(い)は次回に持ち込みとさせていただきます。
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