バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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メーシャ meṣa मेष 【伊藤武のちょこっとサンスクリット語】


(旧暦)新年、おめでとうございます。今年は未(ひつじ)年。
ということで、今回と次回は十二支の動物をサンスクリットで紹介しましょう。十二支のトップバッターは子(ね/ねずみ)ですが、ここはヒツジから。
ヒツジは、メーシャ。メーメー(me)鳴く生き物(ṣa)ということです。サンスクリットの動物名は、日本の赤ちゃんことばのニャンニャン(猫)、ワンワン(犬)みたいなオノマトペ(擬声語)が多い。
ヒツジは犬とともに、人間との良きつき合いがもっとも長い生き物です。ヒツジとヤギ(aja)の家畜化は、インドでは9000年前のメヘルガル期から始まっています。
な お、メヘルガルはインダス河の西の丘陵地帯のふもとにある、BC.7000〜BC.2300年に栄えた邑(まち)の遺跡の名。最後期はインダス文明に吸収
されてしまいますが、それまで断絶することなく人々の暮らしが続けられたので、インド文化の原型といえる先史文化の、約5000年間にわたる闊達(かった
つ)な発展の様子を見て取ることができるのです。
ともあれ、ヒツジは永く、その毛は人びとを寒さから守り、乳は滋養を与え、肉は宴を彩ってきたのでした。そして、ヒツジは、火神アグニの乗物で、おへそのマニプーラ・チャクラを象徴する動物です。

子(ネズミ)は、ムーシャ(mūṣa)。√mūṣ(盗む)という語根が当てられていますが、これも、ムームー鳴く生き物、が実際の語源でしょう。英語のmouseとも近しい言葉です。
ネ ズミは食物を食い荒らし病原体をまき散らす、ヒツジとは逆に人間の天敵ともいえる動物ですが、おめでたい神様のガネーシャがこいつを乗り物にしているとこ
ろに、インドのブラックユーモアじみた知恵を感じます。幸運の女神ラクシュミーが姉の不幸の女神アラクシュミーと常にいっしょにいるように、幸と不幸は
切っても切れない表裏一体の関係にあるのでしょう。

丑(うし)は、ゴー(go)。日本の牛はモーモーですが、インドではゴーゴーと鳴くよ
うです。コブウシの家畜化は、メヘルガルでは7500年前から始まります。以後のインド文化における牛の重要さは、今さら述べるまでもありません。ヒン
ドゥー教では一部地域を除いてビーフはタブーですが、ヴェーダ時代は好んで食されていました。
去勢していない牡牛、すなわち種牛は特にヴリシャ(vṛṣa)といい、シヴァ神のシンボルまたは乗り物です。ヨーガにも牡牛のポーズ(vṛṣāsana)がありますね。
大地の女神プリティヴィーを象徴する乳牛は、デーヌ(dhenu)と称されます。

寅(とら)は、シャールドゥーラ(śārdūla)。√śṝ(殺す)に派生する語で、「殺戮獣」。人間と家畜にとって、非常におっかない巨大肉食獣、ネズミとは違った意味での天敵であることが、ひしひしと伝わってきます。
し かし、虎は、ライオン(siṃha)とともに、神の威厳を象徴する動物であり、おっかない女神ドゥルガーの乗り物とされています。シヴァ神は虎の皮を腰巻
きにしていますが、これはシヴァはそのドゥルガー女神をシャクティ(性力、エネルギー)とする、という二重の象徴になっているのです。
ヨーガの伝説の八十四アーサナのひとつに虎のポーズがヴィヤーグラ・アーサナ(vyāghraは虎のもうひとつの名)の名でクレジットされていますが、いかなるポーズであるかは不明です。

卯(う/うさぎ)は、シャシャ(śaśa)。√śaś(跳ぶ)に派生する語で、日本風にいえば、ピョン吉、ピョン子。月はしばしばシャシン(śaśin、「ウサギを持つ者」)と呼ばれます。
猿、 キツネ、ウサギが山中で行き倒れている老人に出会った。気高い動物たちは、彼を救おうと、食糧を集めてきた。猿は木の実を、キツネは魚を。しかし、何も得
ることのできなかったウサギは、たき火にピョンと跳びこみ、わが身を老人に与えた。老人じつはインドラ神は、ウサギの慈悲行を後世まで伝えるため、この動
物を月へと昇らせた。
おシャカさまの前世をつづった『ジャータカ』に初出する説話ですが、古くはインドでもウサギが広く食用とされていたこと、そしてウサギの旺盛な生殖能力が月と関連づけられて生まれた物語のように思われます。ヨーガに、ウサギのポーズ(śaśāsana)があります。

辰 (たつ)、すなわち竜/龍は、蛇体に鹿の角、牛の耳、虎の足などを足した中国の空想上の生物ですが、かつて長江流域に棲んでいたワニ(揚子江鰐)が原型と
考えられているようです。サンスクリットのナーガ(nāga)が「龍」と漢訳されますが、ナーガは次の巳(み/へび)と対応します。ワニを原型とするキメ
ラ、ということで、龍にもっとも近い神話の動物はマカラ(makara)でしょう。
マカラは、「水(ma)に棲む動物(kara)」が原義で、体の前半分はワニ、後半分はカワイルカ、長い鼻をもった顔は象に似ています。その名のとおり川や海に住み、大型種(?)はクジラ以上の巨体を誇るとか。
ガンジス河の女神ガンガー、海神ヴァルナ、愛神カーマがマカラを乗り物としています。下腹部のチャクラ、スワーディシュターナを象徴する動物でもあります。ヨーガにマカラ・アーサナがありますが、通常「ワニのポーズ」と訳されます。
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