バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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ダートゥ dhātu धातु【伊藤武のちょこっとサンスクリット語】


「サプタ・ダートゥは、ラサーヤナ(rasa-ayanaで錬金術、不老長生術)の発想である。生半(なまなか)の医者にわかるはずがない」
シュリー・クラ派というヒンドゥー・タントラ(密教)のグルが書いているのを読み、そうであったか、と深く頷いたものです。これまで疑問に思っていたことが氷解した思いがしました。
サプタ・ダートゥは、アーユルヴェーダの大黒柱となる理論で、口から体内に摂りいれられた食物は、
①乳糜(rasa)→②血(rakta)→③肉(māṃsa)→④脂肪(meda)→⑤骨(asthi)→⑥骨髄(majjā)→⑦精液(śukra)
の順で「7つの身体構成要素」(サプタ・ダートゥ)に変化していく、というのですが……。
乳糜(にゅうび;食物が消化されてドロドロの粥状になったもの)が血や肉に変わるのはわかるとして、脂肪が骨になり、髄になり、精液になる、というのには頭を傾げてしまいますよね。
そこで、ラサーヤナの発想を採り入れてみましょう。
サプタ・ダートゥは、①の「ラサ」に始まるのだから、ラサーヤナ(ラサの行方)にちがいない。
この場合のラサは、「乳糜」という訳語に惑わされてはならない。「ものごとの精髄をとかしこんだ液状のもの」、ないしは錬金術でいう「第一原質」です。
最後の⑦「シュクラ」(精液)も、男性がペニスから発射する白い粘液や、女性のその等価物である卵ばかりを思ってはならない。シュクラは√śuc(輝く)に派生する語で、「輝けるもの」が原意。これはすなわち、錬金術において「黄金」として象徴されるものです。
また、サプタ(7)は、オクターブを暗示しています。ちなみに、オクターブはインドの発明。インドのSa・Re・Ga・Ma・Pa・Dha・Niが、中世にペルシア経由でヨーロッパに入って、ドレミファソラシになったのです。チャクラが7つある、宇宙が7つの階層に分かれている、といわれるのも同じこと。その上に、1オクターブ上がったさらなるチャクラ、さらなる宇宙が広がっているのです。

さて、ダートゥ(dhātu)。「成分、要素、層、語根……」など多くの意味が与えられています。辞書で語源を調べると、「√dhāにtuを添えたもの」とあるから、dhā(置く/固定する)が語根であることがわかります。なお、この「語根」というのもダートゥです。
また、日本の密教で「金剛界」(Vajra-dhātu)というときの「界」も、ダートゥです。
では、ダートゥの後ろ半分のtuとは何か?
コトダマ的に解釈すれば、tは「抽象的ななにか」であり、uはその「容れ物」……。「抽象的ななにかを収容するものを定めたもの」。わかりにくい表現ですが、「語根」の意味から考えて、「最小単位」というのが、いちばん近いイメージかと思われます。
「金剛界」というとき、「ダイヤモンド(金剛)の世界」を想像してはいけません。密教における「金剛」とは「空」。万物を構成する最小単位は「空」である——というのが金剛界の真意です。
これを、サプタ・ダートゥにあてはめれば、食物が、人体という錬金装置の大きな管(口から肛門にいたる消化官)から小さな脈管、微細な脈管をくぐって消化・代謝しながら、次代の生命体の原材料になるまでの、七つのステージ、ととらえるべきなのでしょう。血とか骨といった具体的なものというより、食物が生命再生産のダートゥに昇華されるまでの七変換です。
タントラ文献には、脈管のなかを、このサプタ・ダートゥが流れている、としるされています。血(ラクタ)が流れるというのはわかります。というか、当たり前。しかし、骨(アスティ)や精液(シュクラ)などのようなものまでも、脈管を循環しているというのです。
タントラでいう“ビンドゥ”(bindu;点、滴)に近い概念なのでしょう。「骨」というとき、われわれは体を支える固い骨を想像しがちですが、それだけではなく、これから骨に生(な)ろうとするもの、骨が分解したものも含まれている。それがダートゥ(最小単位)、ないしはビンドゥなのです。
そして、サプタ・ダートゥのオクターブが上がると、最後の「精液」(シュクラ)は、オージャス(ojas)なるものに変換される。これは元気の素、免疫力のみなもとで、タントラのヨーガにいう“アムリタ”とほぼ同一のもののようです。
われわれの身体は、ほんらい素晴らしい錬金装置である。しかし、トリ・ドーシャ(アーユルヴェーダのもうひとつの大黒柱となる理論)が狂うことにより、この装置も正しく機能しなくなり、病気に病気になる、ということなのでしょう。
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