バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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ヨガの料理手帖【伊藤武かきおろしコラム】



「ダル。国産の豆で代用するときは、半分に割って皮を捨てて料理するか、水に一晩つけておき、もみ洗いをして皮をとるようにするとよい……」
これって、わたしが生まれて初めて買った料理本、『ヨガの料理手帖』に載っているダールの作りかたです。
「チック・ピー粉(ヒヨコマメの粉、ベースンのこと)が手に入らないときは、エンドウ豆を鍋でいり、冷ましてから、ミキサーや粉ひき機を使ってできるだけ細かくひき……」
なんてのもあります。ギーの作りかたも書いてあります。
ヨギ・ヴィダルダスというアメリカでヨーガを教えている方が1968年に出したインドの菜食料理の本で、日本での初版は1971年。本邦におけるインド料理本の走りではないでしょうか。
1971年といえば、ジョン・レノンが『イマジン』を発表し、ジョージ・ハリスンがバングラデシュ・コンサートを仕掛け、日本では『戦争を知らない子どもたち』や『あの素晴しい愛をもう一度』が流行った、そんな年。その数年後のことですが、わたしは絵の勉強のために上京し、一人暮らしをするようになってからは、ずっとこの本のお世話になりっぱなしでした。
そう、グリピースを二つ割りにし、あるいはコーヒーミルでガリガリひき、バターを煮てギーを作り、ヨーグルトも自作し、デパートの食品売り場で小さなビンに入ったスパイスを買いそろえ、せっせとインド料理(もどき)を作ったものです。
そして、インド雑貨屋で買ったクルタ・ピジャマをまとい、インド香を焚き、ヨーガをしてから、なにかの本に載っていた怪しげなマントラを唱え、儀式めいた雰囲気で、おもむろに手づかみで食う。
来るべきインド放浪の旅にそなえての「稽古」です(笑)。
同時並行的に、玄米やマクロビなども試してみました。
でも、困ってしまいました。これらは相互に矛盾するのです。
日本の「正しい食」は、インド料理に欠くことのできない乳製品やフルーツを、食っちゃダメ、とおっしゃる。
インドはインドで、玄米や酢をまったく評価していない。
今考えれば、依って立つ文化や思想が異なるから違ってとうぜんなのですが、当時はアメリカ経由の「東洋のヘルシーフード」として十把一絡(じっぱひとからげ)に捉えられていたのです。
ついでにいえば、ヨーガや太極拳や気功や野口体操などの「東洋のボディワーク」も……。

修業の甲斐(かい)あって、インドに行っても、チャパティも、サモサも、ダールも、チャイも、ラッシーも、プラーオも、サブジーも、パコラも、ライタも、安いめし屋でありつくものはおおよそ経験済みですから、注文にも困りません。手づかみで食って、旅行者仲間のあいだでもデカい顔ができます。
ただし、唯一想定外だったのはダーニヤー(コリアンダーの葉)。『ヨガの料理手帖』にはありませんでした。独特の臭みのある、当時のアメリカ人に嫌われたハーブだったので、著者はあえて外したのでしょうか?
しかし、これがないとインドの味にはならない。帰国してからは、スパイスのコリアンダー・シーズを種にして、コリアンダーを栽培しました。

それから、あっという間に30年が過ぎ去りました。また、わたしがインドの食文化をネタにした『身体にやさしいインド』で物書きデビューしてから、ちょうど20年がたちました。
いまではダールもベースンも、代用品(これはこれで美味しいのですが)を苦労して手作りしなくても、本物がネットで簡単に入手できる。コリアンダーの葉もスーパーで買える。アーユルヴェーダという言葉もひろく知られるようになりました。隔世の思いがいたします。
けれども、アーユルヴェーダの食体系や中国薬膳や玄米正食やマクロビ、さらにローフーズなどが、一般には混同されてる、という状況は、あまり変わっていないようです。たとえば、アーユルヴェーダの名で厳格な菜食を守っている人を見受けますが、アーユルヴェーダが肉食を禁じることはありません。インドのヨーガ行者は、白砂糖を使った甘いお菓子が大好きですし(といっても、彼らにとっては、めったにありつけるものではない)、逆にローフーズを食べることはまずありません。
これらの「正しい食」は、それぞれに素晴らしいのでしょう。しかし、万人に適うものではないかもしれない。ゆえに、その「原理」を見きわめることは必要かと思います。それぞれの理論を比べることで、借り物ではない、より自分に適したオーダーメードの「正しい食」が身に付くのではないでしょうか。
そんなこんなを、6月28、29日の高尾山合宿でお話ししたいと考えています。
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