バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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*謎のカレー【伊藤武のかきおろしコラム】*


インドで食べた美味しいものはたくさんあります。
いちばん強く印象づけられたのは、スーリヤ・テンプル(太陽寺院)で有名なオリッサ州コナーラクでいただいた謎のカレー。
コナーラクでは、森のなかにあるバラモンの僧院に泊めていただき、遺跡や伝説やヨーガを調べていました。食事も提供されます。この僧院の神であるニラーカーラを料理で供養(プージャー)した後、その料理を神の恩寵(プラサーダ)として、修行僧たちとともにいただきます。
沙羅双樹(さらそうじゅ)の葉の皿に、米飯をのせ、カレーをかける。魚のカレーがよく出されました。オリッサでは、魚は「水中の野菜」あつかい。動物ではないから、菜食主義であるはずのバラモンであっても、食べることに躊躇(ためらい)はない。
コナーラクは海辺の村。新鮮な海の幸のカレーです。日本人であればサシミ以外に考えられないシマアジも、カレーソースで煮込みます。しかし、われわれの舌にもよく馴染む。オリッサ料理はスパイスの使用が控えめで、素材の味を生かすことを重視するので、ちょっと風変わりな魚の煮付けのような感じです。
あるとき、なにかの団子を煮込んだカレーが供されました。魚ではなく、野菜のようです。香りがよく、噛み心地が官能的といっていいほどに快い。なつかしい、郷愁をくすぐるような味なのですが、何だかわかりません。料理を担当しているバラモンに訊くと、オリッサ訛りの強いサンスクリットで、
「スルジャハ・シュンニャン……」
スーリヤ(太陽)は、すなわちシューニャ(空)である……。
じつは、この僧院はもともとは仏教であったらしく、その教義は仏教タントラ(密教)とサウリヤ(太陽教)のミックス。主神のニラーカーラも「相(すがた)なき者」の意で、大乗仏教の「空」を神格化したもの——おそらくは大日如来が名を変えた神だったのです。
「太陽は火の球(たま)じゃ。この団子は太陽を象(かたど)っている。材料は何か、だって?  ははは、非常に縁起のいいジャラジャ・シャーカ(水中の野菜)じゃよ」
水中の野菜って、魚のこと? いや、そんなはずないよな……
畏友のインド料理研究家、香取薫(かとりかおる)氏であれば、容疑者を尋問する刑事のごとく、しつこく追求するに違いないのですが、調べることが山ほどあるわたしは、正体不明の「水中の野菜」で、あっさり納得してしまいました。

さて、わたしは、母に教えられた蓮根ボールの味噌汁をよくつくります。
蓮根をすりおろし、水気をほどほどに絞る(全部絞ったら、おいしくない。絞った水は、もったいないから汁に入れる)。これに片栗粉を加え(量にして蓮根のすりおろしの3割ほど)、よく混ぜて、団子にして、煮立った汁に放りこみます。味噌を溶いて出来上がり。サンショの葉を浮かべていただくと、すがすがしい香りが立って、たいへん美味しい。
ふと思い立って、この蓮根ボールを油で揚げ、カレーで煮込んでみました。僧院でいただいた太陽のカレーの味が甦ります。ああ、水中の野菜って……ふつうに考えれば蓮根だよな。蓮華はスーリヤ神の標幟(ひょうしき、シンボルとなる持物)でもあるし。
以後、蓮根ボールのカレーは、わたしにとって特別の料理になりました。
レシピは……わたしなりのものもありますが、香取薫著『インド家庭料理「カレーとサブジー」』をご覧になってください。しかし、蓮根をぶつ切りにしてカレーにした家庭料理はけっこうありますが、蓮根ボールはまずお目にかからない。香取氏は、知る人ぞ知るあの迫力で相手を脅して、どこぞからレシピを奪い取ったのでしょう。

いま、蓮根は、花粉症に非常に効果のある野菜として注目されています。続けて食べることで、8割以上の人が完治、ないしは症状が大きく改善された。蓮根が腸内環境をととのえ、それがアレルギー緩和につながるとのことです(女性セブン2014年4月10日号)。幸い、わたしは花粉症に悩まされることはありませんが、気になるかたは「レンコン 花粉症」で検索してみてください。
アーユルヴェーダでは、ひとつの食物が万人に効果がある、という発想はしませんが、蓮根だけは特別あつかいしてもいいかもしれません。その花こそが神仏の座(アーサナ)なのですから。
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