バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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ミトラ mitra िमत्र【伊藤武のちょこっとサンスクリット語】


西暦紀元前後ごろ、インドからヨーロッパにまで広まっていた、ひじょうにスケールの大きな世界宗教のあったことをご存知でしょうか。ローマ帝国でミトラス、ペルシアでミスラ、そしてインドでミトラとよばれた神を祀る神秘主義的な宗教です。
ミトラスとミスラは、一神教のキリスト教とイスラム教に駆逐されてしまいます。しかし、それでも両宗教のなかに、この古(いにしえ)の神の名残が見られます。
たとえば、キリストが生まれたとされる12月25日は、ほんらいはミトラス神の降臨の日でした。つまり、この神は、一日の日照時間がもっとも短くなる12月25日ごろの冬至にいったん死んで、あらたに生まれ変わる太陽神だったのです。なんの属性も持たぬとされるアッラーも、光明神としての性格を帯びています。イスラム世界でさかんな占星術も、ミスラ教から継承した学問です。
対して、ヒンドゥー・仏教世界では、ミトラはいろいろな意味で、いまだ現役の神です。

Mitra。「太陽、友」。√mi(投げかける/量る)または√mid(愛する/愛情を感じる)に派生する、神聖な光明を惜しげもなく放射する太陽や、同様に温かい友愛を発する人物をあらわす言葉です。
ヒンドゥー教では、ミトラは太陽神スーリヤの別名のひとつで、スーリヤを勧請するマントラでは、必ずミトラの名が誦(よ)みあげられます。
仏教では、ミトラは、阿弥陀(あみだ)如来として受容されました。無量光(むりょうこう)、無量寿(むりょうじゅ)とも意訳される阿弥陀の原語は、アミターバ(Amitābha、無限の光)またはアミターユス(Amitāyus、無限の生命)で、語中にあらわれるmitaは、ミトラの語源の√mi(量る)の過去分詞。a(否定)-mita(量られた)-ābha(光)またはāyus(生命)。これは、まさしく太陽神ミトラの恩恵といえましょう。
音訳して毘盧遮那(びるしゃな)、意訳して大日如来(だいにちにょらい)こと、ヴァイローチャナ(Vairocana)も、vi(遍く)-√ruc(照らす/輝く)を語源とする、これまたミトラに出発するホトケです。このヴァイローチャナの別名というか本名が、バリ島というときのバリ(Bali)で、「[恩恵を惜しげもなく]与える太陽神」という意味になります。
ミトラという名から直接生まれたホトケに、弥勒(みろく)がいらっしゃいます。将来、衆生の救済のために下界に下るまで、天界のトゥシタ(兜率天/とそつてん)に待機している菩薩ですが、弥勒の原語は「ミトラに関わる者、ミトラから生じた者、ミトラの息子」を意味するマイトレーヤ(Maitreya)。マイトレーヤのガンダーラ方言のミイロという音が中国に運ばれて、ミロクとなったのだそうです。
また、ミトラという語の女性形マイトリー(maitrī)は「友情、友愛」をあらわす語ですが、大乗仏教では憐愍(れんみん、あわれみ)をあらわすカルナー(karuṇā)とともに、ひじょうに重視されました。マイトリーは漢訳して「慈」、カルナーは「悲」。すなわち「慈悲」です。
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