バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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スワルナ svarṇa स्वर्ण【伊藤武のちょこっとサンスクリット語】


今回は景気よく、黄金の話をしましょう。
「金、ゴールド」を表わす梵語はたくさんありますが、
もっともよく使われるのはスヴァルナ(suvarṇa)、またはスワルナ(svarṇa)でしょうか。同じように聞こえる語ですが、ニュアンスが若干異なります。
suvarṇaは「素晴らしい/美しい(su-)色(varṇa)」。
svarṇaは「太陽の(svar)色(varṇaの省略形の-ṇa)」。
このsvarは、ガーヤトリー・マントラのいわば枕詞(まくらことば)であるoṃ bhūr bhuvaḥ
svaḥのsvaḥと同じ語で(svaḥの-ḥは、次にくる音によっては-rになる)、「天/天界/天国」のニュアンスもあります。
svarにga(行く)を添えたスワルガ(svarga)は、ヒンドゥー教の「天国」をさす最も一般的な語ですが、「太陽のもとに行くこと」が原意。ヴェーダ時代、太陽は生命の源であり、太陽のなかに(あるいは太陽の向こうに)死者が往くべき天国がある、と考えられたのです。
2音節のスワルガ(太陽の色)が先で、スヴァルナ(素晴らしい/美しい色)は前者を3音節する必要——韻律詩をつくるときは音節の数を調整しなければならない——から生まれた語だということ。つまり、われわれ日本人が「山吹色」と表現する目出たい色彩を、古代インド人は「お陽さま色」とよんだわけです。
スワルナ・パクシャ(Svarṇa-pakṣa;黄金の翼を持つもの、「金翅鳥/こんじちょう」と訳される)の異名をとるガルダ神は、太陽の光輝で天空を羽ばたいているのです。
ガルダは、東南アジア——カンボジアやタイだけではなく、現在ムスリムが大半のインドネシアでも大人気の神様。その東南アジアの梵名は、スヴァルナ・デーシャ(Suvarṇa-deśa;「黄金郷」)、またはスヴァルナ・ドウィーパ(Suvarṇa-dvīpa;「黄金島」)。古代インド人は、東方に、黄金(貴金属、香料、宝石)を求めて船出したのでした。

「黄金」を表わす語として、ヒラニヤもよく用いられます。
ヒラニヤ(hiraṇya)は、√hṛ(取る、奪う、奪い去る、さらう、取り去る)から出た語。
神の絶対性を表現するハラ(Hara;「絶対者の顕現」)やハリ(Hari;「絶対者の作用」)も、印欧祖語に遡ればセクハラやパワハラのハラ(英harasment)も、同語源です。ハラは通常シヴァ神、ハリはヴィシュヌ神と解釈されますが、これも古くは太陽神のイメージでした。
ヒラニヤ・ガルバ(Hiraṇya-garbha「黄金の胎児」)は、太陽の子であり、ブラフマンであり、各人(われわれひとりひとり)でもある。
ハリは、ヴィシュヌの形容辞としてのほか、「黄または緑」をあらわす語としてもよく用いられます。ヴェーダの詩人は、太陽や火やソーマ酒のあの輝ける光の形容にこれを多用していますから、ハリ色も正しくは「太陽の色」なのです。あるいは、太陽の作用としての「新緑の萌え上るような生気にみちた輝き」でしょうか。「黄緑」ではなく、「金緑」。コリアンダー(香菜)の生葉は、サンスクリットでは、ハリまたはハリト・ダーニヤー(hari/harit-dhānyā;dhānyāは「滋養あるもの」)。この語は、現在のヒンディー語でもそのまま使われています。

地上で唯一変化しないものである金(ゴールド)は、そのいつまでも変わらない金色の輝きによって、太陽の象徴、生命のシンボルとなりました。黄金を身に付けることは、生命を増強することでした。
そして、黄金は、永遠の生命を人工的に作り出そうとする錬金術(rasāyaṇa)のシンボルにもなっていくのです。
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