バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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ゴーラール golālu गोलालु【伊藤武のちょこっとサンスクリット語】



今回は、新大陸原産で、
この数百年のうちにインドに定着した作物のネーミングについて。ヒンディー語のそれと比較しながら、そのセンスを味わってみましょう。

まずはジャガイモ。サブジー(野菜の炒め煮)にサモサにマサラドーサ……ジャガイモのないインド料理なんて考えることもできません。ジャガイモをあらわすヒンディー語はアールー(ālū)。その元となった言葉は、サンスクリットのアールカ(āluka)。
しかしアールカは、芋はイモでも、もちろん新参者のジャガイモではありません。サトイモやヤマイモのたぐいです。āluka=サトイモ、āruka=ヤマイモと区別することもあります。インドでは、どちらも伝統的な食材で、おもにサブジーにします。
新来の芋に与えられた梵名はゴーラール(golālu)。gola(球)とālu(芋)の複合語で、「球のような芋」の意。golaは古代の天文学文献では「地球」の意でも用いられる語ですが、その地球の反対側からやって来たジャガイモは、インド大衆が単に「芋(アールー)」といえばこれを指すほどに、亜大陸に広く、深く根づきました。
ついでにいえば、サツマイモも新大陸の原産。梵名マドゥワール(madhvālu<madhu甘い-ālu芋)。一部の地方で栽培されていて、ゆで芋やお菓子の材料になります。

唐辛子は、ヒンディー語でミルチ(mirc)。しかし、この語は本来「胡椒」を意味する梵マリチャ(marica)の転訛。つまり大衆語のミルチ(辛くてヒリヒリするスパイス)は、使用頻度の高さから、胡椒に代わって、唐辛子を指すようになってしまったわけです。現在では、本来の胡椒はkālī-mirc(黒胡椒)、saphed-mirc(白胡椒)などと、色をあらわす形容詞を添えて言いわけています。
サンスクリットでは唐辛子は、胡椒との混同を避けるためか、英chiliから借用したチッリー(cillī)を用いています。この語はさらに、トウガラシ発祥の地とされるメキシコおよび中米ナワトゥル語のchileにさかのぼります。

トマトは、ヒンディー語タマータル(ṭamāṭar)。サンスクリットのトマトは、そのṭamāṭarをサンスクリット風に改めたタマータ(tamāta)。ヒンディー語では、外来語のtやdは反舌音(巻き舌音)のṭやḍで表わすことのが多いのですが、サンスクリットでは語の始めに反舌音がくることは、いくつかの例外(たとえばダーキニーḌākinī、ダマルḍamaru、6ṣaṭ)を除いて、ほとんどありません。またサンスクリットでは、トマトという植物をあらわすときは女性形のタマーター(tamātā)、フルーツは中性形のタマータン(tamātam)になります。

ピーナッツは、ヒンディー語ムーングパリー(mūṅg-phalī)。ムーングはダールのひとつの緑豆のこと(梵mudga)。そのパリー(果実のごときもの)ということでしょうか。緑豆とピーナッツ……う〜ん、あまり似ているようには思われませんが。
サンスクリットのピーナッツは、同じダールでもチャナ(ヒヨコマメ、梵caṇaka)に喩えて、ブーチャナカ(bhū-caṇaka)。ブーは大地ですから「地中で育つヒヨコマメ」。ピーナッツをゆでて食べれば、そのほくっとした感じがたしかにヒヨコマメを思わせます。

トウモロコシは、ヒンディー語で植物全体はマッカー(makkā)、実はブッター(bhuṭṭā)。「ブッタら、マッカになった」と憶えやすいのですが、語源は不明。
サンスクリットでは、シャシヤ(śasya)で、「槍の穂(のごときもの)」の意。粉に挽いて、メキシコのトルティーヤそのもののチャパティにします。貧しい人の食べ物とされていますが、しみじみとした旨さがあります。
南インドの、10〜13世紀のチョーラ時代の寺院にお参りすれば、“シャシヤ・ナータ”、すなわち「トウモロコシの主」とよばれる形式の、4本の腕をもったシヴァ神像に迎えられるかも知れません。
このシヴァは、上の左右の手で彼のシンボルである三叉戟とダマルを持ち、下の右手は「畏れることなし!」というメッセージを伝えるアバヤ・ムドラー。そして、下の左手はトウモロコシとしか思えないものを掲げています。
飢饉(ききん)に苦しむ人々に糧を与える——転じてシヴァ神の恩寵をあらわす像(すがた)なのですが、しかし、15世紀にアメリカを「発見」したコロンブス以前につくられたミステリアスな図像です。
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