バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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キャラ立ちぬラーマ【伊藤武のかきおろしコラム】


「ストーリーうんぬんより先に、主人公のキャラを立てろ!」
とは、以前、講談社のコミック誌に連載をいただいていたとき、
編集者にいわれた言葉。コミック誌といっても、わたしが描いていたのはインド神話を題材にした絵巻風のものだったのですが、創作の基本はマンガも、そして小説もおそらくは同じです。
ユニークなキャラを練りあげる。じっさいにいたら、かなり困ったちゃん、ぐらいでちょうどいい。人間的弱点も必要。それが読者の感情移入をたやすくする。キャラが出来たら、彼/彼女が勝手に動き出して、ストーリーが展開する。編集者にそういわれ、そういえば『あしたのジョー』の作者、高森朝雄(梶原一騎)が、
「ジョーが勝手に動いて、追っかけるのが大変だ」
と云っていたことを思い出しました。わたしは今、当時のフォーマットをそのまま使って、『ラーマーヤナ』絵巻を描いているのですが……

インドの神々はキャラが立っていて、どこか親しげで、しっとりと心になじむ感触があります。
パワフルで底抜けで、大麻ぐるい(ボーラ)のシヴァ。
宇宙の秩序のためにはズルイこともいとわないヴィシュヌ。
潔癖性で、ブラフマーに離縁され、孤高の道をあゆむサラスワティー。
ヴィシュヌの貞節な妻のように見えて、じつはプレーガールのラクシュミー。
途方もない女たらし、人たらしのクリシュナ。
みなさん、たいへん魅力的です。ところが、ラーマだけはキャラが立たぬ。いや、彼のキャラクター(特徴)ははっきりしています。
ラーマは、その名のとおり、たいへんなラーマ(いい男)である。作者ヴァールミーキによると、ゴリラのように胸が厚く、テナガザルのように腕が長く、詐欺師のように頭が働き、クッキングパパみたいにあごが張っていて、メガネザルのように大きな目をしたハンサムで……わたしはいい男をヨイショしたくないので、つい、かような形容をとってしまう……そして、ゴルゴ13のように腕の立つ、最高にいい男なのである。
そのうえ、ラーマはダルマ(義務)の権化である。ダルマは、カーストや立場によって異なりますが、ラーマは、王子時代は、子のダルマにしたがい、親とグルには絶対服従。妻のシーターとともに森に追放されると、夫のダルマにしたがい、妻を最大限にいつくしむ。シーターが魔王ラーヴァナに誘拐されると、クシャトリヤ(戦士)のダルマにしたがい、妻を奪還することに全力を尽くす。それに成功すると、こんどはラージャン(王)のダルマにしたがい、ラーヴァナと男女の関係になった可能性のある、つまり不可抗力とはいえ不倫したかもしれぬ妻を衆人の前で焼き殺そうとする。
完全無欠です。百点満点の優等生で、ケチのつけどころがありません。しかし、前述したように、人間的弱点があってこそ、感情移入のできるキャラとなりえます。あえていえば、ラーマは、妻シーターが誘拐されたとき、悲しみのあまり狂人のようになってしまうところに妻への深い愛を読み取れますが、その後、残酷な裁判官に変じ、その妻に、死んでもいい、というような仕打ちをする。愛よりもダルマが優先する(ちなみにクリシュナはその逆)。
ものかきから見れば、ラーマはキャラの立てようのないつまらぬ男です。しかし、彼の物語は、それが成立して以来千数百年ものあいだ、インドと東南アジアの人びとを魅了しつづけてきた。何がラーマの魅力なのでしょう?
責任感、でしょうか。たとえば原発事故。当の東電も、政治家も、官僚も、おのれの保身一途で、この何世代後にまで負の影響を及ぼす事故を見て見ぬふりをしている。新たになにか深刻な事態が発生しても、ひた隠しにしようとする。かれらにラーマの爪の垢を煎じて飲ませたい、と思います。
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