バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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ソーマ Soma सोम

ソーマ Soma सोम 【伊藤武のちょこっとサンスクリット語】

ヴェーダの祭官は、炎のアーティストでした。
彼は、神に見立てられたホーマ(homa;護摩)の火を燃え上がらせ、踊らせ、バター油を振りかけて有頂天にさせる。そして、ソーマをふりかけ、濛々(もうもう)たる湯気を発生させて、神を喜ばせ、活気づける。
燠火にしたかと思うと、すぐにまた立ち上がらせ、激しく躍動させる。
じつにヴェーダの祭官は、緩急を心得た火の統御者でした。火という現象のもつ神秘の力、その光、熱、煙、炎と、物を清らかな灰にする燃焼作用を畏怖する人間の心は、古代インドに印象深い火の儀礼を作りあげたのです。
供物のバター油は、新鮮なバターから作ったグリタ(ghṛta)と醗酵したクリームチーズから製したサルピス(sarpis)の2種類がありま す。前者はこんにちのギー。後者は「醍醐」(だいご)と漢訳されるもので、最高の美味を意味する「醍醐味」の語源がこの言葉であることは言うまでもありま せん。しかし、醍醐は、製造に手間と時間がかかるためか、古代のうちにインドからは消失してしまいました。とはいえ、牛乳が原料であるのは明確だし、製法 もおおよそわかっていますから、復元は可能です。
しかしながら、もうひとつの「最高の供物」ソーマが何であったか、今となっては——いや、インド史の初いうちから、わからなくなってしまいました。

Soma。soは√sū(活力をもたらす/酩酊・興奮させる)の派生語。maは「母」でしょうか。
ソーマには、somaという名詞の性にしたがい、三重の意味があります。
男性名詞(somaḥ)では、「神々のお気に入りの飲料、供物」としてのソーマ。
女性名詞(somā)では、「その原料」としてのソーマ。
中性名詞(somam)では、「それを飲んだ者が行く天国」としてのソーマ。
あるとき(おそらく4000年前の西北インド大地震)を境に、女性名詞で語られる「活力をもたらし、酩酊させるソーマの原料」の供給が途絶え、3000年前の後期ヴェーダ時代のインドにおいてさえ不明になってしまったのです。
正体不明の神の供物は、理想化され、「非常に甘美で、陶酔をもたらし、神と合一し、魂と心と体を活気づけ、若返らせ、不老長生をもたらす飲料」で あった、と考えられるようになりました。この意味合いでの“ソーマ”は、西洋錬金術でいう「賢者の石」の同義といってよいでしょう。すなわち、
——不死(amṛta)をふくめた一切を可能にする物質!
です。
アーユルヴェーダのラサーヤナ(「不老長生術」または「錬金術」)の出発点のひとつは、ソーマを人工的に合成しようとする試みでした。ハタ・ヨー ガも同。ハタ・ヨーガの根本聖典『ゴーラクシャ・シャタカ』には、ソーマを体内で合成し、ホルモンないしは脳内麻薬のごとく内分泌させる法がしるされてい ます。つまり、ラサーヤナとハタ・ヨーガの原点は、ともに、「失われたソーマの回復」だったのです。

ソーマが何であったかには、もちろん諸説ありますが、ここでは詮索しないことにしましょう(すでにあちこちで書き散らかしているし)。各人それぞれのソーマがあっていい、と思いますので。
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