バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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ヴィディヤー Vidyā िवद्या

ヴィディヤー Vidyā िवद्या 【伊藤武のちょこっとサンスクリット語】

日本仏教のホトケのなかでも、ちょっと異色なのが「明王」とよばれるグループ。軍荼利、孔雀、愛染、降三世などいろいろな明王がおいでですが、「お不動さん」はどなたもご存知でしょう。
魁偉(かいい)なお顔をし、右手に竜を巻きつかせた剣を、左手に仏敵をひっくくる縄索(投げ縄)を持って、巌(いわお)の座にどっかと腰を下ろしたすがたは、まこと頼りがいがある。交通安全、家内繁栄、商売繁盛など祈願の対象に大人気のホトケです。
明王のなにが異色かといえば、その火炎を背負ったダイナミックな姿。立って、武術の構えをしている明王もいらしゃいますし、座像の不動でも騰(お ど)りかかってきそうなダイナミズムを秘めています。悟りや悟りの内容をしめす他の多くのホトケと異なり、明王はいずれも何らかの力(シャクティ)をあら わしているのです。では、なぜそうなのか? 
「明王」の梵名、ヴィディヤー・ラージャ(Vidyā-rāja)そのものが、答えです。

ヴィディヤーは、√vid(知る)の派生語で、「知識、科学、学問」を意味するヴェーダ(veda)と同語源。意味もヴェーダとあまり変わりませ んが、ヴェーダが「抽象的な学問」であるのに対し、ヴィディヤーには「実用的な知識/技術」のニュアンスがあります。ヴェーダは男性名詞、ヴィディヤーは 女性名詞ですから、まさに男と女のちがいでしょう。
さらにヴィディヤーには「呪法、呪文(マントラ)」の意味もあります。たしかに、卓越した技術は、今日であっても、魔法のように見えるものです。そして、技術の修得にはマントラが必要——とされるのがインド。技術と呪法と呪文は、セットとして扱われます。
このヴィディヤーは、やがて擬人化されます。それが、ヴィディヤーの王、明王です。
たとえば、お不動さんの場合は、「チャンダ・マハーローシャナ」という呪文が、まずあった。「恐ろしき大忿怒よ」ぐらいの意味ですが、チャンダは チャンダーラ(不可触民)とも関係する語ですから、おそらくはそうした社会の底辺にいる呪術師が、鬼神をよびだして、敵を調伏するために用いた強力なヴィ ディヤー(呪文)だったのでしょう。その呪文が仏教に採り入れられ、前述した姿かたちが擬せられて、仏法の守護者、不動明王となったのです。
同様に、降三世の正体は「スンバ・ニスンバ」という呪文。もとはアーリヤ部族と敵対した先住部族の呪文であったと思われます。これも敵を呪殺する ときに用いられましたが、あまりに強力だったので、ヒンドゥー教ではこのヴィディヤーそのものを抹殺する必要に迫られます。「シュンバとニシュンバ」とい う双子の魔神を殺すドゥルガー女神の神話は、そのために生まれました。一方の仏教は、「スンバ・ニスンバ」をみずからの陣営に引き入れ、降三世明王に仕立 て上げます。
仏敵を成敗することに長けたホトケだけではありません。艶っぽい方もいらっしゃいます。「ジャハ・フーン・ヴァン・ホーホ」は、愛欲を成就するための呪文で、最後のホーホは性的歓喜の高まりをあらわしたもの。この呪文を体現したホトケが、愛染明王です。
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