バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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【ながつきの満月通信 vol.2】

今月の満月は2回目でので、長月vol.2とさせていただきました。


クリシュナ 【伊藤武かきおろしコラム】

最近、つくづく面白い、と思うのが、インド神話の、
——クリシュナ
というキャラクター。
ご存知のとおり、彼は幼いときは、バターを盗むは、裸になって沐浴している女たちの衣服を盗むは、と、やりたいほうだいの悪ガキでした。長じても女グセが悪く、伝説によると1万6000人の女性と関係を持ったという。とくに人妻のラーダーと深い関係になります。
『バガヴァッド・ギーター』では立派なことを言っておきながら、その後のマハーバーラタ戦争においては、戦闘ルール(当時の戦争にはスポーツのご とくルールが定められていた)をことごとく無視した卑怯きわまる戦法で、敵方のすぐれた戦士たちをつぎつぎに葬りさってゆきます。ボクシングの試合にプロ レス技を使うようなものですが、ダーティーファイトが売りのクリシュナです。
かなり矛盾した性格の持ち主のようですが、それもそのはず。起源の異なるいくつかの神や実在の人物のフュージョンが、ほかならぬクリシュナ神なのです。
実在のモデルとは、ブッダの数百年前に生きたバラモン思想家のクリシュナと、その弟子(または思想的後継者)のヴァースデーヴァ。
ヴァースデーヴァは、現在のラジャスターンあたりに居住したヤーダヴァ族という戦士カーストの王、ないしは王族だったようですが、ブッダ同様、新 興宗教を開きます。それが、バーガヴァタ教(ヴィシュヌ教の原形)の始まりでした。バガヴァットという「唯一絶対の神」を信仰する一神教です。プログレッ シブな宗教でした。
一神教といっても、キリスト教やイスラム教のように他宗教の神を否定したりはしません。ぎゃくに他神を取りこんでいきます。ヴェーダの神であるプルシャやヴィシュヌ、ウパニシャッドで説かれる最高原理ブラフマンもバガヴァット神の化身、ないしは同義語になっていきます。
これらの神や原理は、ほんらい姿かたちのない抽象的な存在でした。
しかし、バガヴァット神、ないしはバガヴァットと人間クリシュナおよびヴァースデーヴァの合体であるクリシュナ神は、人間としての姿かたちを具えたアイドルです。
宇宙の創造者、絶対者であると同時に、地上に生を受けた人間としても活躍するのです。
大宇宙そのものである最高の神が、赤ちゃんになってハイハイしたり、おっぱいを吸ったり、悪ガキになって女の子にちょっかい出したり、人妻と不倫 を重ねたりするのです。なんと、かわいく、エロく、親しみやすい神であることか! 人類が生み出した最強のキャラクターといってよいでしょう。
抽象的な神を、「となりのお兄ちゃん」みたいな人格神に変容させたことは、バーガヴァタ教の大発明でした。これによって、神への礼拝、瞑想がうんと容易になりますから。この魅力的な神を、
——ひたすら信愛(バクティ)する!
というのも、インドにあってはバーガヴァタ教が打ち出した新戦略です。

以上のことは、インド学者のいくつかの論文を読めば見当つきますが、学者が見落としている視点があります。それは、バーガヴァタ教が戦士のための宗教である、ということ。戦士の実践(ヨーガ)であるダヌルヴェーダ(武術)と密接にリンクしているということ。
たとえば、『バガヴァッド・ギーター』に説かれる、
——行為の結果を思いわずらうな!
というカルマ・ヨーガも、ほんらいはダヌルヴェーダの発想でした。
武術は、敵と対峙したとき、勝ちたい、とか、殺されるかもしれぬ、という気持ちの生ずることを戒めます。疑心や不安は心の動揺を生み、体を萎縮さ せ、反応を鈍らせるからです。勝つか負けるかは、すべて神様の思し召し。ダヌルヴェーダ文献は、たとえ敗れて首打たれても、その魂が天国に召されることを 保証しています。
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