バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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ガンガー Gaṅgā गङ्गा


ガンガー Gaṅgā गङ्गा



前回、メール(須弥山)と、インド宗教を受け入れたアジア各地に「ご当地メール」がそびえていることをお話しました。今回はメールとペアになる聖河ガンガーについて。ちなみに、サンスクリットの山の名はほとんどが男性名詞、川の名は女性名詞です。
ガンガーが、メール=カイラーサ山を源とする(とされる)インド最大の聖河ガンジス、およびその女神をさす固有名詞であることは、今さらいうまでもありません。しかし、これもアジアを見渡すと、各地で「ご当地ガンガー」が、どうよ! とばかり存在感をしめしています。
スリランカのシンハリ語では、“ガンガー”は川全般をしめす一般名詞。
バリ島では、聖山の麓から湧きだす多くの泉が“ガンガー”。いや、この場合の泉は通常「渡し場、沐浴場」を意味するサンスクリットのティールタ (tīrtha)という語で呼ばれ、沐浴池をそなえた寺院になっていますが、気持ちはガンガー。インドのガンジスの水がそうであるように、そうした泉から 汲みだした水が儀式で用いる聖水となります。また実際、ティールタ・ガンガーとよばれる沐浴池もあります。
カンボジアでは、アンコールのメール=クーレン山に発するシェムリアップ川がガンガー。アンコール・ワットに象徴されるアンコール文明はこの川の賜物といってよく、河畔にはガンガー女神を讃える石碑が残っています。
タイでは、古都アユタヤや現在の首都バンコクを流れるチャオプラヤーがガンガーに喩えられているほか、インドシナ最大の大河メコンの名がガンガー そのものに由来しています。インドではガンガーはしばしば“マー・ガンガー”(Mā Gaṅgā)、つまり「母なるガンジス」と称されますが、そのタイ語形が“メー・コン”(Mae Kong)。Maeは母で、KongはGaṅgāの転訛ですから、同じく「母なるガンジス」の謂(い)いとなります。
その“ガンガー”という語のイメージを歌にすれば、

♪う~きのおがわはガンガンいくよ(雨季の御川はガンガン行くよ)

√gam(行く)という語根を2つ重ね、女性名詞にしたのが、ガンガー。直訳すれば「行く行く女」。「行く行く」で、かの河の圧倒的な、エネル ギッシュな流れが表現されます。そして、この「流れ」を表わす呪術的ともいっていい響きをひめた名こそが、インド宗教を受け入れたアジアの各地で「ご当地 ガンガー」が必要とされた理由でもあるのです。
ガンガーが神聖視されるのは、その水が飲食や農業ほか生活全般に欠かせないことに加えて、動き、流れる水が、大いなる浄化力を有する、と信じられ ているから。「清浄」にこだわるインド宗教では、「ケガレ」は日々の生活のなかで必然的に蓄積される、とされます。そのため、不純物を取り除くもっとも単 純な方法として、沐浴が規定されます。そして、庶民がふだん沐浴するのはふつうの川でもかまわないのですが、寺院の沐浴池の水や儀礼で用いる聖水は「絶対 にガンガーの水でなければならない」と定められています。
しかし、インド本国では「ご当地ガンガー」というわけにはいかない。ガンジスから遠く離れた南インドであっても、必ずガンガーの水でなければならない。え、そんなの無理に決まってるじゃん、と思われることでしょうが、心配なく。
プールいっぱいの水も、ガンガーの水を一滴垂らすだけで、すべてガンガーの水に変わる、ということです。
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