バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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シュリンガ Śṛṅga शृङ्ग  【伊藤武のちょこっとサンスクリット語】

シュリンガ Śṛṅga शृङ्ग


シュリンガは、√śṝ(傷つける/刺す/殺す)に由来する語で、「角」。動物のツノをさします。なぜ、今回この語を取り上げたかというと、シュリンガが2つほど興味深い単語とかかわってくるからでして……。

ひとつは、シュリンガータ(śṛṅgāṭa)。
「角のあるもの」ぐらいのニュアンスで、ヒマラヤのような鋭い峰(とくに3つの峰のある山)、そして菱(ヒシ)の意味になります。
ヒシってご存知でしょうか? 蓮華の咲くような沼池に繁茂する、白い可憐な花をつける植物です。実は角張っていて(菱形の語源)、つまりツノがあります。これを乾燥させたものが、忍者が追っ手から逃れるときに地面に撒くマキビシです。
殻を剥くと、肌色をした果肉があらわれます。デンプン質で、ちょっとクリに似た味がします。わたしが子どもの頃はまわりにふつうにあったと思いますが、成長してからは見ていません。しかし、インドで同じものが、食用として売られているのを見て驚きました。
聞けば、ハンサ鳥が好む、ひじょうに縁起のいい食物とのことです。ラクシュミー女神の好物ともされてます。彼女は「蓮華の女神」ですから、蓮華池→菱、ということで関係があるのでしょう。
面白いのは、この“シュリンガータ”が、スナックの「サモサ」の梵名になっていること。
以前、ムスリム起源のお菓子のジャレビに“クンダリー”という梵名がつけられていることを書きましたが、サモサもじつはムスリム起源の料理です。サムサ、サンブーサなどと称され、挽き肉の餡(あん)を小麦粉の皮でつつんで油で揚げたものが原型で、イスラム教徒ではいまでもこのタイプのものを“サモサ”と呼んでいるようです。
それを、ジャガイモの餡のベジ仕様にしたのが、ヒンドゥーのサモサ。しかし、バラモンはムスリム起源のことばを使いたくないから、シュリンガータと呼ぶわけです。たしかに、形はヒシの実に似ています。

シュリンガ(角)と関係のあるもうひとつの単語は、シュリンガーラ(śṛṅgāra)。
「恋情、恋愛」などと訳されますが、エロチックな思いのからむ「色恋」ということばのほうがピッタリときます。これがなぜツノなのか意味深ですが、サンスクリットの辞典では、愛神のカーマと関連づけられています。いわく、「カーマ神の持つ弓の矢に突き刺される(śṝ)と、人は恋に狂う。ゆえに、この感情をśṛṅgāraという」。
シュリンガーラは、ラサ(芸術の基本となる感情)のトップにくるものです。古代のヨーガでは真っ先に否定される感情でしたが、中世のバクティ・ヨーガでは、神への帰依(バクティ)の基調となる感情と定義されるようになります。
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