バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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【やよいの満月通信】

【伊藤武かきおろしコラム】


イワシくさい好(い)い男?



「イワシくさい」とは、ポルトガルで、好い女、をいうスラングだそうな。かわいい娘を指し、
「あのコ、イワシくさい(イケテる)ぜ」
というふうに使うそうです。日本でも、昔から「鰯(いわし)を食べると元気になる」と言い習わされてきたから、潑溂(はつらつ)とした乙女のイメージが浮かんできます。
ところで、好い男のことを、イワシくさい、って云わなかったっけ? というのは、わたしも毎年、この季節になると、かなりイワシ臭くなるから。
冬はカタクシイワシ(セグロ、シコイワシともいう)のシーズン。スーパーのおサカナ売り場を覗くと、1パックに20尾くらい入って200円ほどで売っています。こいつは味がよく、イタリアやスペイン、ポルトガルでもっとも好まれているイワシとほとんど同種の魚なのですが、全長7、8センチと小さく、調理法もあまり知られていないためか、よく売れ残っています。閉店時を狙うと、半値くらいになっていることもしばしば。そいつを買い占めて、イタリア料理――パスタやピッツァに不可欠のアイテム、“アンチョビ”の漬けこみに精を出すことを、毎年の習慣(ならい)としています。
まず、頭をハサミでちょん切って、手開きし、内臓と中骨をとりのぞく。中骨は尻尾に近いところを指で摘んでねじると、簡単に折れる。キッチンペーパーでウロコや内臓の残りをきれいに拭い取る。
この時点で、手が思いっきりイワシ臭くなるわけですが、それだけの価値はあります。そして、ここまでは、あらゆるカタクチイワシ料理に共通する下ごしらえです。こうしてフィレにしたやつは、フライやグラタンにしても美味しい。
わたしのおすすめは、レモンで〆(しめ)た刺身(Acciughe al Limone)。レモン汁、塩、コショウでマリネし、一晩冷蔵庫で寝かせる。それだけで、すごくシャレた一品になります。イタリアやスペインでは、これにパセリやバージンオイルをかけていただくが、醤油もよく合います。
アンチョビの場合は、このフィレを25パーセントの塩といっしょに密閉容器に漬けこみます。2、3日で容器は魚からにじみ出てきた汁でいっぱいになります。魚肉は漬けこんでひと月ほどで、味がなじみます。
尾ビレや背ビレをはずして油にひたすと、缶詰で売られている“アンチョビ”と同じものになりますが、自家製の場合はこのプロセスはまったく必要ありません。オイル缶は北欧やアメリカで普及している商品。産地の地中海沿岸では、塩漬けのままで出回っています。
そして、この魚からにじみ出たナマぐさい汁が、じつはたいへん貴重なのです。イタリアの漁村でアンチョビを手づくりしているマンマたちは、日本でいえば醤油の感覚で料理に使っています。スパゲッティの仕上げの塩味をととのえるときに、この汁をひとたらし。ナマぐささは、熱っせられると、とんでもない旨味に変身します。
冷蔵庫に入れておけば何年でももちますし、料理好きのかたにプレゼントする(ただし女性限定、好い男のふりをする)と喜ばれますから、毎年時間が許すかぎり、アンチョビ作りに励んでイワシくさくなっていたのですが――
この冬は、カタクチイワシをほとんど目にしていません。流通していないのです。東日本大震災の影響で陸揚げ港が機能していないのか、それともなにかの異変の前触れなのか……
ちょっと心配になります。

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