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バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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縄文のソーマ【コラム】



遺跡発掘のアルバイトをしていた時期があります。
大地に鉋(かんな)をかけるようにして、地肌を一皮一皮剥いでいく発掘作業は、意識の深みにダイブしていく瞑想の体験に似ています。
おのれの幼年期の光景にどこかつながるようで馴染みある昭和、大正、明治の層――遺物のほとんどは土器――の下には、徳川三百年がのんきそうに寝そべっています。
室町、鎌倉、平安、奈良、飛鳥……。脈絡もなくよみがえる断片的な思い出のようです。道すがらながめたアジアの一風景が浮かびあがってきたりします。かの地を旅し、むかしの日本のようだ、と思うことは、だれしもあるでしょう。
関東ではローム層――太古の富士山が地の底から吐き出した赤いマグマの堆積にぶちあたると、縄文です。冥(くら)い、しかし豊饒な、無意識の領域をおもわせるフィールドです。
その発掘現場に東京国立博物館の平成館が建ち、このたび「縄文展」がもよおされました。ヨーガの仲間数人で見にいきました(もっとも満員で、ほとんど人の肩越しに見るにとどまりましたが)。

若いころ、スリランカの古都、アヌラーダプラの近くの森で過ごしたことあります。
森の中には、かつては水田を潤していたであろう人造湖が今も生きていて、そのほとりの3軒の小屋に、爺さま、婆さまから乳飲み子にいたるまで十数人の家族が住んでいました。
森で暮らす人々は素敵でした。偉大なる自由さをもっていました。朝、男たちが湖で漁をやる。2、3時間もすれば30センチほどの魚が数十尾も獲れる。昼は自分たちが食べる以外の魚をもって他のところに行き、コメや野菜と交換してくる。働くのはそれだけ。残りの時間は遊んだり、眠ったり、好き勝手なことをやっています。
日本の縄文の人たちもきっと、このように暮していたのではないか、と思ったことでした。
旧石器時代(縄文は新石器時代に相当するが)こそ真の「豊かな社会」が実現されていたと主張する人類学者もいます。農耕生活を始めることによって、人間の労働時間は一挙に十倍、十数倍にも増大したのです。
森の男は云いました。
「きみには聴こえるかい? この森の音楽が、鳥たちの歌が、草木のつぶやきが。 風の流れ、太陽の燃える叫び、大地の呻き、それぞれがこの夕暮れをうたっているのが。この黄昏のシンフォニーが、憩いに向かう森の音楽が、きみの裡(うち)でひびく脈動が……聴こえるかい?」

縄文は弥生と対になるコンセプトです。
縄文は狩猟採集。弥生は農耕。縄文の造形は複雑でサイケだが、弥生のそれはシンプルで明快。
縄文10,000年のあとを、1,000年に満たぬ弥生が足早に過ぎてゆく。しかし、短い弥生の上に、古墳、やまと、飛鳥、奈良……と今につづく「時代」が重ねられていく。
とはいえ、縄文が終わったわけではありません。つい最近まであった囲炉裏(いろり)を囲んでの食事は縄文スタイルだし(弥生はかまど)、ワラビなどを灰でアク抜きするのは、まぎれもなく縄文に発する文化です。
長野では、毒キノコとされるベニテングタケをすらアク抜きをして食用としますが、これも縄文由来です。縄文の家屋からはベニテングタケの脂肪酸が確認されていますから、利用されていたことは疑いありません。ベニテングタケのうまみ成分は、シイタケのそれの10倍も濃いのです。
そして、われわれの生活にも縄文が、ときおり顔をのぞかせるように思います。ツネ(日常)に対するマツリ、として。

さて、縄文展では、ハートや三角の顔や、この時代の日本にはいなかったはずのネコ科の動物の顔をした土偶に並んで、キノコの模型がありました。
中米のマヤ文明の遺物にも、神との交流に用いた聖なるキノコ、テオナナカトル(「神の肉」の意)の模型があります。それと似た特別のキノコだったのでしょう。そして、そのキノコとは、同じ時代のインドで“ソーマ”の名で神聖視された、前述のベニテングタケだったにちがいありません。
今もこれを食する長野の人たちは、ときおりアク抜きが不完全なため、サイケデリックな世界に飛ばされる、ということです。
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