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バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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ちょこっとサンスクリット語【ラヴァナ lavaṇa लवण】


「この世でいちばん美味いものは何だかン?(三河弁のつもり)」と徳川家康に問われ、
「塩じゃン」と答えたのは側室の阿茶局(あちゃのつぼね)。「塩がなきゃあ、どぎゃあ料理もあかん」
「ほいじゃあ、どべ(いちばん不味いもの)は?」
「ほれも塩だらー」
たしかに塩の用法を誤れば、どんな料理もどべになる。

塩をあらわすヴェーダ時代以来のサンスクリット語は“ラヴァナ”。√lū(切る/切り離す)の派生語といえば、「切るが何で塩なの?」と思いますよね。これはラヴァナが岩塩坑から切り出されたもの、すなわち岩塩であったからと思われます。
ラヴァナは「塩全般、塩味」をしめす語としても用いられます。

インドの塩といえば、マハートマ・ガンディーの「塩の行進」(1930年)を思い出すかたも少なくないでしょう。
当時、塩はイギリス植民地政府の専売でした。どんな料理にも欠くことのできない塩にたんまりと税金をかけ、インド人から徹底的に搾取しようという魂胆です。
ガンディーはそれに抗議し、多数の信奉者をひきつれ、グジャラート州アフマダーバードから同州南部のダーンディー海岸までの386キロを行進。かれらは、それを阻止しようとする警官に棍棒で打ちのめされますが、無抵抗主義をつらぬきます。そして、ついに目的地に達し、海水から塩を作るのでした。この世でいちばん美味い塩であったにちがいありません。
しかし、海塩(sāmudraka<samudra海)は、アーユルヴェーダの教科書『チャラカ・サンヒター』には「あまりよくない塩」としるされています。消化後、刺激性を帯び、腸をイラつかせるのだとか。

チャラカ先生のイチオシの塩は、サインダヴァ(saindhava<sinduシンドゥ)。消化後、甘い味に変わり、身体を保護するという。
Saindhavaを「岩塩」と訳している本をよく見かけますが、正しくはその名のとおり、インダス下流域のシンドゥ地方に産する岩塩のみをさす言葉です。この塩は「パキスタンのピンク岩塩」として、こんにちの日本でも入手することができます。
たしかに旨味のある塩ですが、チャラカ先生の言を真に受ける必要はありません。ガンダーラ(現パキスタン西北辺境州)に暮らした彼がつねに口にした塩が、サインダヴァであったから。慣れた塩がいちばんいいに決まってます。
先生は、海の魚のカツオ(cilicima)のことを、「陸を這いまわる怪魚」、「健康を害する最悪の魚」とこき下ろしています(http://itotakeshi.blog33.fc2.com/blog-entry-131.html)。海をまったく知らない人だったのでしょう。

インドに流通する、ひじょうに特徴ある塩が、ヒマラヤで採掘されるカーララヴァナ(kāla-lavaṇa、黒塩)。文字どおり黒い色をした岩塩で、ゆで卵を強烈にしたような硫黄臭がします。しかし、この塩を使った豆料理、菜食料理は味に深みが出て、一度食べると、ふつうの塩でつくった料理が物足りなく感じてしまうほど。
サードゥご用達の塩でもあり、かれらは長時間断食、瞑想するときは、よくこれを口に含んでいます。サイキックな効力があるのかもしれません。この塩も、「ネパールのブラック岩塩」の名で日本でも入手できますから、興味あるかたはお試しください。
カーララヴァナは、古代から代用品が人工的に作られてきました。塩と炭酸ソーダを大量に含む植物の灰、アーマラカ、ハリータキー等の生薬を高温で溶融させると、ほぼ同じものになります。


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