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バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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コラム【実録ラーマーヤナ】


前々回の「実録マハーバーラタ」を承けて、今回は「実録ラーマーヤナ」です。
ヒマラヤに発し、ネパールを割って、ヴァーラーナシーからすこし下ったガンガーに注ぎこむ聖なる川ガーグラー。古名はサラユーまたはシャラユー。そのほとりに、アヨーディヤーという都市が、3000年前から、同名のままで建ちつづけています。いわずと知れたラーマの都です。
そこに、“ラーム・ジャンム・ブーミ”とよばれる地区があります。「ラーマ生誕地」の意で、ラーマが生まれ育ち、王位に就いた後は拠点とした王宮があった、と考えられているヒンドゥーの聖地です。しかし、その地は中世以降ムスリムに占領され、バーブリー・マスジッド(モスク)が建てられました。
1992年、「アヨーディヤー事件」が勃発します。「ラーマの聖地の奪回」をスローガンとするヒンドゥー原理主義集団によってモスクが破壊され、つづく衝突で主としてムスリムを中心に 1200人が全インドで死亡したのです。日本の政治学者のなかには、
「ラーマーヤナは虚構なのだから、そこを聖地とすることは、まったくのナンセンスである」
とおっしゃるかたがいますが、こうした意見のほうが、よっぽどナンセンスといえましょう。キリスト教徒にとってイエスの復活が真実であるごとく、ヒンドゥー教徒にとって、ラーマは史実以上に真実なのだから。
インド考古局は事件以来、廃墟となったモスクの発掘調査を再三求めていますが、政府はいまだにこれを許可していません。モスクの下から太古の王宮の址(あと)が出ようものなら――その可能性は高い――、史実がどうであれ、それはラーマと関連づけられ、ヒンドゥーVSムスリムの新たな火種になるに決まっていますから、当然でしょう。

『ラーマーヤナ』にちなんだ考古学資料に、「黒縁赤色土器」があります。このタイプの土器は、BC.2000年のインダス文明末期の西インド(グジャラート)に始まり、文明滅亡後のBC.1500~BC.500年には、中央インド(マディヤプラデーシュ)や、ラーマやシーターの王国のあったガンガー中流域(ウッタルプラデーシュ東部~ビハール)で広く用いられていました。
つまり、「黒縁赤色土器」をたずさえた人びとは、インダス水系と絡まるガンガー・ヤムナー上流域からガンガー沿いにその中流域に移動したのではなく、中央インドを横切ってその地に入植したことがわかります。
上流域にはすでに「彩文灰色土器文化」を営むバラタ族が定住していました。のちに『マハーバーラタ』に記録される人びとです。『マハーバーラタ』の人びとが月神チャンドラを祖とするチャンドラ・ヴァンシャ(月種族)であるに対し、『ラーマーヤナ』の人びとがスーリヤ(太陽神)を祖とするスーリヤ・ヴァンシャ(日種族)であることが興味深い。ゴータマ・ブッダの出自であるシャーキヤ(釈迦族)も、黒縁赤色系の土器を用いて、スーリヤ・ヴァンシャを名乗っています。
ともあれ、スーリヤ・ヴァンシャとしてアヨーディヤーに居をかまえて、のちのコーサラ国の礎(いしずえ)を築く王家の息子が、王位継承のトラブルに巻きこまれて追放された――。後期ヴェーダ文献などをもとに「史実」と確認できる『ラーマーヤナ』は、残念ながらここまでです。
この伝承に、猿国の争乱の物語、英雄ラーヴァナ(魔王ラーヴァナはじつは名君であった)の伝説が合流して、じょじょに『ラーマーヤナ』のストーリーが形成されていったと思われます。

『ラーマーヤナ』は、『マハーバーラタ』と同じく5世紀ごろに成立したとされています。しかし、『マハーバーラタ』がその時点で完成したのに対し、『ラーマーヤナ』はその後も改訂がつづけられました。
ラーヴァナの王国ランカーは、はじめは南インドの何処かにある高くて峻険な「山」だったのですが、6世紀以降ドラヴィダ国(タミルナードゥ)のヒンドゥー教徒がスリランカに遠征するようになると、ランカーはスリランカに同定されてしまいます。
また、東南アジアとの交易がさかんになると、猿軍のシーター捜索隊はジャワやその向こうの島(バリ?)にまで派遣されることになります。
12世紀以降、ムスリムのインド侵攻が激しくなると、人間の英雄であったラーマを最高神ヴィシュヌの化身として礼拝する風習が急速に広まってゆきます。彼は、ヒンドゥーの不屈の闘志の象徴になったのです。
20世紀の反英闘争においてもラーマはそのシンボルとされ、マハートマ・ガンディーは「どんな新生インドを作りたいですか?」という外国人記者の質問に、「ラーマの国」と答えました。
『ラーマーヤナ』は、いまだ終わらぬ、進行中の物語なのです。
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