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バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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ちょこっとサンスクリット語【ヴィナーヤカ Vināyaka】


インド人学者の調査によると、日本に243のガネーシャ寺院あり、とのこと。
ガネーシャが、象の顔をし、人びとに富と知恵と幸福をもたらすヒンドゥー教の神であることはいうまでもありません。日本のガネーシャ寺院というのは、密教寺院にみられる聖天を祀った堂です。
そのひとつ、高尾山の聖天堂を案内してくださった上人が、おっしゃいました。
「聖天(しょうてん)はひじょうに恐ろしいホトケでしてな……聖天を扱うことは、荒行をつんだ修験者(やまぶし)にしかできンのです」
つまり、密教の高僧である上人であっても、聖天すなわちガネーシャの荒ぶる力を制御しえない、というのです。
ヒンドゥー教のガネーシャ神話は、多くはユーモラスなもので、怖いという感じはしません。しかし、ガネーシャの前身は恐ろしい悪鬼でした。日本の密教に伝わる聖天の神話のほうがそれをよく伝えています。

象頭の魔神がいた。疫病、災害、事故、狂気、不運……あらゆる悪いことは彼のしわざ、すなわち魔神は毘那夜迦(びなやか;障害をもたらす鬼)であった。
人びとを悲(あわ)れんだ十一面観音が、ピンク色の象頭の女神に化けて、魔神に近づいた。美しい同族の♀を初めて目にしたヴィナーヤカは、たちどころに発情し、
「やらせろ、パオ~ン」鼻を猛り狂った男のナニのようにもたげて迫った。
「あたしのゆーこと聞いたら、させて、あ・げ・る」象頭の女神はにっこりとした。
「お、おう、なんだ? パ・パ・パ・パオ~ン」
「ブッダとダルマ(仏法)とシャンガ(仏教教団)に帰依して♡」
「お、おう! ブッダとダルマとシャンガに帰依する」
「いいコね、これであなたも仏教徒。もう悪いことしちゃダメ。あなたは強い力を持っている。こんどから、その力を人びとの幸せのために使うのよ」
「お、おう! パ・パ・パ・パ・パオ~ン♡」
象頭の魔神は、象頭の女神と合体した。ふたりは、歓喜にとろけた。
    
日本の聖天像の多くは、男女の象頭神が抱擁するすがたで表現されます。女神は魔神の悪心を封じ、それを慈悲の力に転化させる役を担っています。しかし、いつ、そのストッパーが外れ、ヴィナーヤカの悪しき力が放射されるか、わかったものじゃない。聖天像のほとんどが秘仏として隠されているのは、そのためかもしれません。
さて、この神話に聖天の本名「毘那夜迦」(ヴィナーヤカ)が記されています。ガネーシャ(Gaṇa-īśa)、ガナパティ(Gaṇa-pati)はともに、「ガナ(眷属/家来/部族/集団)の長」の意で、社長、村長などと同様の、「シヴァの家来衆のボス」という役職名にすぎません。
ヴィナーヤカ(Vināyaka)は、vi-nāyaka(指導者)と解して「指導者」、またはvinā(除く)-āyaka(実行者)と読んで「[障害の]除去者」と訳されることもありますが、ヴィグナナーヤカ、すなわち「障害(vighna)の主(nāyaka)」の略というのが正解。
ヴィグナ(vighna;障害)はvi-√han(殺す/害う)に由来する語で、魔神ヴィナーヤカは、いずれも「障害の主」の意であるヴィグネーシュワラ(Vighna-īśvara)、ヴィグネーシャ(-īśa)、ヴィグナパティ(-pati)、ヴィグナラージャ(-rāja)の名でもよばれます。
これらの名を文献に追うと、この魔神がいかにしてシヴァの家来衆を束ねるガネーシャになったかがわかります。すなわち――
紀元前には“ヴィナーヤカ”という魔神が複数いた(『グリヒヤ・スートラ』)。が、やがて、“ヴィナーヤカ”はじつはひとりである。悪神であるが、讃えれば、あらゆる悪を人々から取り除いてくれる(『マハーバーラタ』)と考えられるようになります。つまり、この「障害の主」はヨイショに弱く、プージャーをすれば「障害を除去する者」に変身してくれる。魔神が善神に転ずるプロセスは、ルドラ→シヴァのそれのリフレインです。
http://itotakeshi.blog33.fc2.com/blog-entry-115.html
6世紀の『ヤージュニャヴァルキヤ法典』において、彼はシヴァ神の“ガナパティ”(家来衆のボス)に任命されます。シヴァ神の家来というのは妖怪連中ですから、ヴィナーヤカはシヴァと関連づけられ、収まるべきところに収まった、というべきでしょう。
7世紀の『ヴィナーヤカ・ガナパティ・ヨーガシッディ品秘要』に興味深い記述があります。
「象は恐ろしい動物ではあるが、象使いに従う。“ガナパティ”も悪神であるが、帰依する人に従う」
そういえば、ガネーシャ神が手にしている物は、すべて象使いに由来します。鉤(かぎ;aṅkuśa)と縄索(ロープ;pāśa)は、象使いが象を操縦するための道具。「歓喜団」(かんぎだん)と訳されるモーダカ(modaka)は象を温和にするための薬物です。象使いは象に大麻と粗糖でつくった大きなモーダカを与える。と、象の機嫌がよくなり、象使いの命じることに素直にしたがうようになります。
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