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バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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ちょこっとサンスクリット語【バーラタ Bhārata भारत】


インド、Indiaは、あくまでも外国人があの国を呼ぶときの名。
http://itotakeshi.blog33.fc2.com/blog-entry-119.html
インド人自身は、みずからの国を「バーラタの国」と称します。古くはBhārata-varśa(バーラタの領土)、現国名はBhārata-gaṇarājya(バーラタ共和国)。
バーラタは「バラタに属する、バラタの子孫、バラタ族」ぐらいの意。
バラタ(Bharata)は√bhṛ(担う/運ぶ/保つ)の派生語ですから、「[義務/正義を]担う者」。
インドの神話伝説には3人のバラタが登場します。⑴ 『マハーバーラタ』やカーリダーサ(5世紀)の戯曲にうたわれるシャクンタラー姫の息子、⑵ ラーマの弟、⑶ ダンスの教典『ナーティヤ・シャーストラ』の作者――ですが、この場合は⑴のバラタ。いかなる人物だったのでしょう?
リグ・ヴェーダ時代にまでさかのぼらなくてはなりません。

リグ・ヴェーダ時代には、5つの主要な部族(王族)が存在しました。プール族、ヤドゥ族、ドルヒユ族、アヌドルヒユ族、トゥルヴァシャ族です。
わたしは、「アーリヤ人侵入説」がイギリス植民地政府による捏造であること(BBCが認めている)、『リグ・ヴェーダ』に現れる地名とインダス文明の領域がぴたりと重なること、『リグ・ヴェーダ』の文化とインダス遺跡からの考古学資料に矛盾がないこと、などから、
――インダス文明はリグ・ヴェーダの文明であった。
と考えていますが、数十世代にわたる王の名を連ねたプラーナ文献の「王統記」にあたれば、これらの部族がどこに居住していたかがわかります(ちなみに、ヴェーダ文献はバラモンの伝承、叙事詩やプラーナ文献はクシャトリヤの伝承にもとづいています)。すなわち――
◦プール族:インダス-サラスワティー流域
◦ヤドゥ族:グジャラート
◦ドルヒユ族 :アフガニスタン
◦アヌドルヒユ族 :カシミールの一部
◦トルヴァシャ族:パキスタンとイランにまたがるアラビア海沿いの山岳地帯
これにしたがえば、モヘンジョ・ダーロやハラッパー、カーリバンガンはプール族(パウラヴァ)の都市、ドーラビーラやドワーラカーはヤドゥ族(ヤーダヴァ)の都市ということになります。
5部族は、共通の先祖をいただき、文化も共有する「ヴェーダの民」でしたが、彼らおよびその支族は、同盟したり反目したりして、絶えず戦っていました。領土を拡大することが王族の義務であったからです。もっとも、それは、他の王の領地を併合するというより、主に宗主権を奪うことによってなされました。

さて、問題のバラタ。彼は、文明の中心地、インダス-サラスワティー流域を支配したプール族の王ドゥフシャンタと、シャクンタラーの間に生まれた息子です。
シャクンタラーは、伝説によれば、ヴィシュワーミトラ仙の娘。ヴィシュワーミトラは、ガーヤトリーを含む『リグ・ヴェーダ』第3巻の作者。大聖者ですが、その威を畏れた神々の王インドラが天女メーナカーを派遣し、誘惑させる。けっか、生まれたのがシャクンタラーで、その数奇な運命は前記したカーリダーサの戯曲によって広く知られています。
そして、バラタは、
――転輪聖王(Cakravartin;法によって統治する理想的な王)として、全世界を征服した。
とされています。伝説になにがしかの真実が含まれているとしたら、BC.2700年頃に築かれたインダス最大の都市モヘンジョ・ダーロはバラタの居城で、彼はそこを拠点にインド(インダス文明圏)を統一したのかもしれません。たしかにインダス文明は、上にあげた広大な地域に成立した文明であるにもかかわらず、(未解読ではあるが)文字、度量衡がみごとに統一されている。文明全体をデザインすることのできる強大な権力が存在した、としか思えません。
そのバラタの子孫がバラタ族(バーラタ)。かれらは親戚である他のパウラヴァと争うこともありましたが、バラタからかぞえて9代目のクル王の時代にクル族(カウラヴァ)としてまとまります。
クルから14代目のシャーンタヌ王は、ガンガー女神と結ばれる。これは、バラタの子孫たちの舞台が、インダス流域からガンガー上流域に遷ったことを物語っています。
そして、シャーンタヌの系統からドリタラーシュトラ、パーンドゥの兄弟が生まれ、その子どもたちがカウラヴァとパーンダヴァに分かれ、マハーバーラタ大戦争に至ります。

バーラタ(バラタ族)がその後どうなったかは、定かではありません。しかし、「バーラタ共和国」という名のりからは、
――インドの黎明期に全世界を征服したバラタの子孫の国こそがインドの正統である。
とする歴史観が、こんにちにまで継承されていることを見てとれます。
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