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バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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【コラム】 サンスクリットで鍼灸(しんきゅう)を

コラム 【サンスクリットで鍼灸(しんきゅう)を】

10年ほど前のアーユルヴェーダ総会でのこと——
「チャイナのツボ・ポイント(経穴)とメリディエン(経絡)は、わが国のマルマとナーディーのコピーである。ブッディズムとともに、インドからチャイナへと伝わったのである!」
インドから招かれた「マルマの専門家」なるバラモンのドクターが、意気揚々と発表します。
「したがって、メリディエンもインドが起源。インドのものである!」
(おいおい、それはないだろ。ツボはともあれ、経絡は中国が起源だ。2000年前の漢代の医者たちが、囚人を生体解剖して、考え出したんだ)
そうケチをつけてやろうと、ガンバって英語の抗議文を考えていたのですが、控え室でドクターから、
「イトーセンセの講演はすばらしかった(わたしも「マルマとタントラのヨーガ」という発表をした)。インド人もビックリね」
と先にいわれ、ヨイショに弱いわたしは、まあいいか、と腰砕けになってしまいました。

そのときに貰ったドクターのマルマ本——ずっと放ったらかしにしていたのですが、最近ようやく読んでみました。
「経絡だけではなく、アキュパンチャー(鍼灸術)もインドが起源である。ちゃんとヴェーダに書いてあるが、読み方がまちがっているので、誰も知らないのだ」
という論調で、うさん臭さ満載なのですが、こじつけもここまでくれば、見事というほかはない。
ここでいうヴェーダとは、アーユルヴェーダの外科医典『スシュルタ本集』のこと。
スシュルタは、ダマニとシラーという脈管についてしるしています。通常は大小の血管やリンパ管とされていますが、ドクターの「正しい読み方」によると、ダマニは経絡で、シラーは経穴とのこと。シラーは単独で、またはいくつか集合して、マルマと称される。
また、経絡には、ルートにしたがい、心経、胆経、肝経などの「12の経」と督脈、任脈の「2つの脈」がありますが、心経はフリダヤ・ダマニ(心臓の管)、胆経はピッターシャヤ・ダマニ(胆囊の管)、肝経はヤクリト・ダマニ(肝臓の管)、督脈はシュクラ・ナーディー(精液脈管)、任脈はアールタヴァ・ナーディー(快感脈管)という梵名を駆使しています。
鍼(はり)はシラー・ヴェーダナ(シラーを貫くこと)。この語は『スシュルタ』に頻繁に見られますが、通常は「微細な脈管を傷つけること」と解釈されます。
灸(きゅう)はアグニカルマン(火の処置)。病変した組織を熱した鉄片などで焼く「焼灼法」と考えられていますが、ドクターは「灸である」と主張してゆずりません。

『スシュルタ』からの(確かにそのようにも解釈できる)サンスクリットの引用文が絶妙で、読んでいるうちに、ひっとしたらドクターのいうことが正しいのかも、という気にさえなってきます。
しかし、経絡は、木火土金水の陰陽五行説にもとづく、きわめて中国的な発想です。木=肝臓と胆囊、火=心臓と心包、土=脾臓と胃、金=肺臓と大腸、水=腎臓と膀胱……などと関連づけて、あの精緻な気のルートが出来上がりました。
マルマを結ぶライン——ナーディーは、これとは異なる発想です。心臓または臍(あるいは臍下のカンダ)から、「人体というプラ(城)の門」である両目、両耳、両鼻孔、口、尿道口、肛門、頭頂孔に向けてはり巡らされたプラーナの通り道。
そして、中国に鍼灸があるように、インドの伝統的なマルマ療法には、身体に浸透する薬用オイルなどを用いてマルマに働きかける精妙なマッサージ術があります。
もっとも、その伝承者が低カーストであるために、高カーストのアーユルヴェーダ医はまったく無視しているのですが。
ドクターの説は、残念ながら、あやまりといってよい。しかし、
「鍼灸で最大の効果を得るためには、その前に、経絡に沿ったスネーハナ(注油法)とスウェーダナ (発汗法)を行なうべきである」
などという記述もあり、「インド起源説」を声高に叫ぶのでなければ、ふたつの伝統医学の融合をはかるすぐれた媒介になりうる、と思いました。
サンスクリットで鍼灸を学ぶ、というのも面白いですし。
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