バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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【ちょこっとサンスクリット】ラサ rasa रस


サンスクリットには、たいへん多くの意味を有する単語がたくさんあります。そのなかでも、もっとも厄介な言葉のひとつがラサ(rasa)。わたしの用いているApte編『梵英辞典』には、
(1) 樹液。 (2) 液体。 (3) 水。 (4) 酒。 (5)[水薬/大麻などを]一服。 (6) 味。 (7) チャトニーのごとき薬味。(8) 味わう対象。 (9) 好み。 (10) 愛情。 (11) 歓喜。 (12) 魅力。 (13) 衝動。 (14) 情趣。 (15) エッセンス。 (16) 乳糜。 (17) 精液。 (18) 水銀。 (19) 毒。 (20) 岩塩。 (21) サトウキビの汁。 (22) 乳。 (23) バター油(ギー/醍醐)。 (24) 甘露(アムリタ/ソーマの搾り汁)。 (25) 澄んだスープ。 (26) 数字の6の象徴的表現。 (27) 汁気の多い未熟なタマネギ。 (28) 没薬。 (29) 黄金。 (30) 溶解した金属。 (31) ラサータラ(地下世界の名)。 (32) 舌。 (33) ヴィシュヌ派における心の性向。
……と、なんと33もの意味がしるされています。
そして、そのいくつかは、医学や錬金術やヨーガや料理などの分野で、それぞれキーワードとなるものです。
(6) のラサ(味)は、医学や料理でいう、甘・酸・塩・辛・苦・渋の6つの味。
(14) のラサ(情趣)は、芸術作品を鑑賞するさいに感ずる、愛・笑・哀・怒・猛・驚・厭・奇・平安の9つの美的な喜び。
(16) のラサ(乳糜)とは、医学でいう7つの身体構成成分の第一要素。
(17) のラサ(精液=性的エネルギー)がヨーガで、(18) のラサ(水銀)が錬金術で重視される語であることはいうまでもありません。
また、タミル料理のラッサム(rasam)は、(25) のラサ(澄んだスープ)に由来します。
サンスクリット文献を読んでいると、文脈からいずれのラサか見当がつきますが、なかにはいくつかの意味あいを兼ねそなえている場合もあります。たとえば、ハタ・ヨーガ文献におけるラサ——
『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』4章26節に、
 rasasya manasaś caiva cañcalatvaṃ svabhāvataḥ,
 raso baddho mano baddhaṃ kiṃ na siddhyati bhūtale.
とあります。すなわち、
「ラサと意(マナス)の性質は、〈動〉である。ラサを縛し、意を縛すならば、この世において成就しえぬことなどあろうか?」
この場合のラサは通常「精液」と訳されますが、錬金術における「水銀」のニュアンスも含んでいます。ハタ・ヨーガはじつは錬金術の原理にもとづいており、卑金属を黄金に変換
(loha-vedha)するのと同様の法で、肉体は霊的身体に変換(deha-vedha)することができる、とされているからです。そして、ハタ・ヨーガにおいて、錬金術の水銀と同等のはたらきを示すものが精液なのです。
となると、rasa=精液、と訳すのは不十分で、rasaはラサと音を写すしかないのではないか、という気になってきます。
多くの意味を有する単語は、それらの意味のすべてを統べるコアとなる意味を把握することが肝要となります。それには、まず語根に当たること。そして、文献上の最初の用法を探ること。
rasaの語根は√ras(味わう)。すなわち、ラサの原意は「味/味わうもの」。
また、最初の用法は、『リグ・ヴェーダ』に現われる (24) のラサ(ソーマの搾り汁)。すなわち、ラサの原イメージは、「汁/エッセンス/心を急激に変容させるもの」。
要するに、ラサとは、水・液汁・食物などの「味わえるもの」であり、「ものごとの精髄」であり、「心や物質を急激に変容されるもの」ということになります。
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