バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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伊藤武コラム 【エキゾチック密教】


「高野山でインドの神々に出会った」五木寛之
なつかしき国鉄の、エキゾチック・ジャパンのキャッチコピーです。1980年前後に密教の一大ブームがありました。司馬遼太郎の『空海の風景』が発表されたのもそのころ。チベット密教が紹介されたのもそのころ。
チベット密教といっても、学術的な本が出るのは1990年代になってからのことで、詳しいことはまだ誰も知りません。チベット密教の、強烈なイメージが、最初にありました。
そして、そのイメージを決定づけたのが、当時雑誌のグラビアなどで頻繁に見かけたチベット寺院の壁画の、エキゾチックなマンダラやホトケたちの写真であったことは疑いありません。
インドの、ラダックの密教寺院です。1970年代、チベット本土の無数の仏教寺院が、共産帝国の軍靴に踏みにじられ、無惨な廃墟と化していったちょうどそのころ、チベット高原の西にあってインド領に組み込まれていたラダックが、旅行者に解放されたのでした。
わたしも、写真に釣られ、その地を旅しました。褐色の大地と群青色の空のはざまに、強い光と濃い影にあやなされた、人間の生の祈りが、生きたチベットがありました。
チベット仏教は、生ぐさいパワーに渦巻いていました。
ホトケは女神と、生ぐさく交わっています。
うすぐらい仏堂は、ギーを燃す灯明で、生ぐさく匂っています。
その明かりにゆらゆらと照らし出される壁画は、腑分けされた内臓を思わせる赤や黄や青の原色を、ぬらぬらと、生ぐさい色調で放射しています。
日本の仏教が「清」(せい)であるとすれば、チベット仏教は「濁」(だく)。動物的な、粘膜質な肌ざわりがあります。
おなじ原色の仏教であるタイのそれと比べても、チベットは圧倒的なパワーを秘めた「濁」であり、生ぐささが際立っています。
20代前半の、生ぐさい年ごろのわたしは、その生ぐささにすっかり酔わされてしまいました。
今思えば、チベット密教——というより、後期密教が生ぐさいのは、そのヨーガが人間の生(せい)の力をとことん利用するハタ・ヨーガに類するものであるからなのでしょう。いや、真にハタ・ヨーガとよべるものは、こんにちのインドにはなく、チベット密教にこそ保存されていることは、研究者であれば誰もが口にすることです。

ラダックにおいて、いちばん魅力的なのは、アルチ寺院。そのすぐそばを、インダス河が大地を深く割って流れています。
大河は、ここから先は、カシミール、ウッディーヤナ(スワット渓谷)をへて、肥沃な平野に達します。
かつてインダス文明をはぐくみ、後のガンダルワの仏教王国(ガンダーラ)の舞台となったところです。
アルチ寺院は、この流れを逆にやってきたインドの匠(たくみ)、またはその直弟子のチベットの匠たちによって造られました。したがって、その建築も、マンダラなどの絵画様式も、チベットというよりも、インドに属します。インド密教の、現存する唯一の遺構です。
寺院は木造建築です。古代インドの宗教建築は木造でしたが、8世紀ごろから石造に代わっていきます。ヒマーチャルやケーララには木造の伝統が残っていますが、古代の建築は存在しないので、古い形を伝えるアルチはたいへん重要です。
そして、アルチ最大の魅力は、なんといっても、アジャンターや今はなきバーミヤーンの壁画にも比肩する秀麗な、おびただしい数の壁画。
マンダラは日本密教と同じ中期密教に属するものがほとんどですが、色使い、ホトケたちの妖艶な顔つきや、ウェストが極端にくびれた独特の体つきは、きゅんとするほどエキゾチック、としか云いようがありません。
また、専門的になりますが、金剛界の大日如来が智拳印(ちけんいん)というムドラーを結んでいるのは、日本密教とアルチだけ。他のチベットやネパール、またインドやジャワに遺る大日像は、すべて転法輪印(てんぽうりんいん)を結んでいます。つまり、高野山とアルチにだけ、同じ起源を持つ「密教」が現代まで生きつづけていた、ということになります。

【サハジャ インドツアー ラダックの秘境レー/ヌブラの旅】
伊藤武と巡る、チベットの文化、仏教、美術。書下しグランタ付き。パンフご希望の方は、送り先明記の上、yaj612@gmail.comへご連絡ください。
◆日時 7月16日(日)〜23日(日)
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