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作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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伊藤武コラム【パクチー・マニア】

ドクダミとカメムシを混ぜ合わせたような強烈な臭い。香菜(コリアンダーの葉っぱ)は、タイ語の“パクチー”の名で今ではすっかりお馴染みに……あらら、「ちょこっとサンスクリット」と同じ出だしになってしまいました。
香菜の初体験は、忘れもしません、1979年、インドに行く前に立ち寄ったタイでのこと。名物のトムヤムにもバーミナーン(ラーメン)にでも、なんにでも入っている。セリやセロリをうんと野性的にしたような感じ。抵抗はありませんでしたが、パクチーという名はもちろんのこと、コリアンダーという名すら知りませんでした。当時、日本ではほとんど知られていなかった、ということです。
インドに行っても、パクチー、いやダーニヤーは、おおかたの料理に入っている。インドに長居するうちにすっかり慣らされてしまい、日本に帰ってからは、手に入らないため、ずいぶんと淋しい思いをしました。
それが、今ではスーパーにも売っていますし、パクチー・マニアという言葉もあるほどですから、隔世の感を禁じえません。

もっとも、日本人が、長い歴史のなかで香菜をまったく知らなかった、というわけではありません。10世紀前半に成立した『延喜式』と『和名抄』に、生魚を食べるさいに必ず添えられる薬味として胡荽(「こすい」または「こにし」、香菜の古名)があげられています。江戸末期には、当時発明されたばかりの握りずしにも香菜が添えられていました。魚の毒消しの効が期待されたのでしょうね。
のちにこの役割はワサビに取って代わられ、日本料理における香菜は淘汰されてしまいます。
その香菜が最近になって再び注目を浴びるようになったのは、アジアの料理が身近になっただけではない。現代の生活において、身体がそれを求めているからではないでしょうか?
ネットで調べてみると、香菜にはさまざまな薬効があるようですが、なかでも注目すべきは、デトックス(毒出し)効果。環境汚染にともない、われわれの身体に蓄積する鉛や水銀やカドミニウムなどの重金属もすみやかに排出してくれるとか。
抗酸化作用も著しい。活性酸素はDNAを傷つけ、結果的にガンや糖尿病、動脈硬化などの疾病、しみ、しわ、そして老化を招く。それを防いでくれる。
各種ビタミン類も豊富ですから、アンチエイジング、強精、美容の強い味方ということになります。
嫌いな人には申し訳ないが、食べなきゃ損といっていいくらい。

香菜は好きな人にはどう食べてもおいしいのですが、わたしがよくやる食べ方を2、3紹介しましょう。
○カルパッチョ:平安時代の生魚の料理に香菜が用いられていたという。刺身(さしみ)と言葉が初めて現われるのは室町時代ですから、この場合の「生魚の料理」とは膾(なます)のこと。カルパッチョの親戚みたいなものです。生魚やタコを薄く切り、柑橘の汁、オリーブ油、塩、ニンニクでマリネし、いただくときに香菜を散らす。
○チャトニ:香菜、ミント、レモン汁、青トウガラシ、塩をペーストにし、揚げものなどのソースにする。香菜とミントは、味の上でも薬効の上でもたいへん相性がよく、インドでも人気のチャトニです。ミントはヒンディー語でプディーナー(pudīnā)ですが、このプディーナーはじつは日本のハッカが起源。日本ミント(ハッカ)が1962年にインドに導入され、以後ひろく栽培されるようになりました。
○五香辣油(台湾の調味油):香菜、ニンニク、ショウガ、青トウガラシ(または山椒の実)、八角(またはキャラウェイ)—
—これらを刻んで、ゴマ油、焼酎、酢(または梅酢)に漬け込む。香菜の難点はいたみやすいこと。が、これなら、保存がききます。
ラーメン、冷やし中華、ギョウザなどにたっぷりとふりかけます。

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