バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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遺跡の楽しみ【伊藤武のかきおろしコラム】


エジプト・ギーザのピラミッドは、現在は切石(きりいし)のゴツゴツした堆積ですが、当初は石灰岩の化粧板で覆われていたことは、周知のことと思います。鏡のように磨かれた化粧板を、昼間は太陽がギラギラと照り返し、夜は満月の冷たい光が湖の底のように青く濡らしていたことでしょう。
カンボジアのアンコール・ワットも、はじめは屋根や塔は黄金で覆われていました。周囲も、今は密林ですが、そのころは商店や、王族・貴族の館が軒をつらねる神殿都市だったのです。
遺跡を訪ねる楽しみは、往時のすがたを脳裏で復元することにあります。

先日、「アーユルヴェーダと世界遺産を訪ねるツアー」で、30年ぶりにスリランカを旅しました。
眼前に世界遺産のひとつ、シーギリア・ロックがそびえています。地面から200メートル、垂直に立ち上がった巨大な岩塊です。
シーギリアは、サンスクリットの“シンハギリ”(獅子の山)の訛り。5世紀当時、この岩塊の上部全体が、シンハラ族のシンボルであるライオンが伏せた姿に見立てられ、そのように見えるように建築が施されていたのです。現在は、岩を彫刻した前足の部分しか残
っていませんが、その上におそらく煉瓦や漆喰で造った頭もつけられていました。
そして、ライオンの背中にあたる岩塊の頂上に、豪壮な宮殿が載っていたのです。
岩壁に描かれた妖艶なシーギリア・レディのフレスコ画も見ものです。
それにしても、高さ200メートルの垂直の崖の上まで、どのようにして建築資材を持ち上げたのでしょうか?  ヘリコプターでもなければ、とても無理としか思えません。
「伊藤サン、ラーヴァナのインドでの評判はどうですかね?」
と、シンハラ人ガイドのS氏。『ラーマーヤナ』敵役の羅刹王ラーヴァナのことです。
「そりゃ最悪だが……でも、彼は音楽の名手で、ヴァイオリンみたいな楽器を発明している。ブッダをこの島に招待したともいわれている(今回の「ちょこっとサンスクリット」参照)。『ラーマーヤナ』では悪役にされてしまったが、本当は名君じゃなかったのかな」わたしがそういうと、
「そうですとも」S氏は、自分のご先祖を誉められたように嬉しそう。
「そして、シーギリアは、ラーヴァナのお城だったのです」
「おれも、そう思う」
『ラーマーヤナ』によると、ラーヴァナの宮殿に忍び込んだハヌマーンは、そのあまりの見事さに驚きます。宮殿内はきらめく宝石で
装飾されている。大広間の床は水晶でできていて、象牙や真珠、金銀宝石で象嵌がほどこされている。なにからなにまで、すばらしい。これに比べれば、インドのもっとも見事な宮殿も、原始人の窟(いわや)にひとしい。
そしてハヌマーンは心底、ぎょっ、とします。玉座の背後に、プシュパカ(UFOのような飛行艇)が宙に静止したまま浮かんでいたのですから。
わたしは、『ラーマーヤナ』のランカープラ(ラーヴァナの都)は、このシーギリアがモデルであった、と考えています。当時は、この岩山だけではなく、現在は密林に埋もれている山裾に(シーターが軟禁された?)庭園や広大な都市が築かれていました。
また、『ラーマーヤナ』には、ランカーに進攻したラーマと猿の軍勢は、ランカープラから数キロ離れた岩山に陣を張った、としるされていますが、それと思しき岩山もちゃんとあります。
しかし、S氏の考えはちょっとちがいます。
「ラーヴァナは、5千〜7千年前の王様でしょう」彼にとって『ラーマーヤナ』は史実なのです。
「当時、すごい科学技術があった。プシュパカも実際にあった。だから、垂直の山の上に宮殿を築くことができたのです。5世紀にここを占領したカッサパ王は、数年で、宮殿から麓の庭園や都市を完成させたといいます。でも、たった数年でこのような大建設がはたして可能でしょうか?
カッサパ王はすでにあったラーヴァナの城——ランカープラを修復しただけなのです」
謎めいた遺跡を眺めていると、本当にそのようにも思えてくるのです。歴史の迷宮に迷いこんだような気がしました。
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敗者が悪役になってしまうのは、
世の常ですね(笑)
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  • 2016.09/04 03:31分 
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