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作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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【プラーカ pulāka पुलाक】伊藤武ちょこっとサンスクリット



前回は古代インドのカレー、スーパ(sūpa)のお話をしました。今回はインドのピラフ、ヒンディー語でいうプラーオ(pulāv)のことをちょこっと。
プラーオの語源は、サンスクリットのプラーカ(pulāka)にさかのぼります。プラーカ自身の語源は不明ですが、しかし、あまりいい意味ではありません。
「あいつは、吹けば飛ぶようなプラーカ(空っぽのモミ)みたいなヤツだ」
と、言うことや見かけは立派でも、中身のない軽桃浮薄(けいちょうふはく)な人物を評する言葉としてよく用いられていました。サンスクリットの辞書をくると、プラーカの意味として、ほかにも「出来の悪い穀物 / 穀物のくず、余った飯、簡潔、迅速」などが載っていますが、それがどのようにしてプラーオになったのでしょうか?
壮大な歴史ドラマが秘められています。

周知のとおり、インドでは、食事のたびに料理を作り、チャパティを焼き、飯を炊きます。食べきれずに余った食物は「ケガレたもの」として、廃棄するか、托鉢僧(サードゥ)や動物に施されます。しかし、これはあくまで原則論。
余った米飯に、これも余った汁なしカレーみたいなおかずをミックスすれば、つまり「混ぜごはん」にして、防腐性のあるバナナの葉っぱにつつめば、農夫の野良仕事や旅行用の弁当になる。正式の食事には供されない、ご馳走とはほど遠い、そしてプラーカの「簡潔、迅速」の意味とも一致する、この簡便食が、おそらくはプラーオの起源であろうと思われます。なお、このタイプの「混ぜごはん」は、こんにちのインドでもつくられ、めし屋に頼めばテイクアウトもできます。
しかし、「混ぜごはん」のプラーカが、ご馳走料理であるプラーオに出世をとげるには、インドを旅立たねばなりませんでした。

7世紀のアラビアに興ったイスラム勢力は、百年を経ずして西北インド(現パキスタン)を侵すまでに膨張します。かれらが、当時の稲作の西限であるガンダーラで得た戦利品としてのコメ、およびその調理法が、プラーオの始まりです。
インドのコメの炊きかたは、スパゲッティみたいに熱湯でゆで、アルデンテになったところで湯を捨て、蒸らして仕上げる。ムスリムは、その前段階の半生の飯に肉を中心としたおかずを混ぜ、あらためて炊くかタンドールで焼くかした——
西アジアでは、コメは貴重品であったし、これに祭のときぐらいにしか食えない肉(ふだんのタンパク質は豆と乳製品)を混ぜこんだごはんは、料理としてはランクの低いプラーカとは一転して、たいへんなご馳走料理となります。
その後この料理は、コメを肉やタマネギなどとともに油で炒めてから水で炊く「炊き込みごはん」に変化して、イスラム圏全域に伝播してゆきます。
また、サフランの自生するイラクあたりで、この料理にサフランを入れて、黄色く染めることが定番となりました。
名前もさまざまに訛って、パラウ(palaw;アフガン/タジク)、ポロウ(polow;ペルシア)、プラウ(pulau;カザフ)、ポロまたはプル(polo/pulu;ウイグル)。さらに、トルコでピラフ(pilaf)。これがオスマン時代にヨーロッパに入って、英語のピラフ(pilau/pilaw)。
そして、インドに里帰りして、こんにちのプラーオにつながるわけです。

この料理の東アジアにおける変貌も、ついでに述べておきましょう。
元や明の時代のチーナでは、ピラフは「抓飯」(ジュアファン)とよばれました。西域の回教徒が手づかみして食べるごはん、という意味です。エキゾチックなご馳走料理でした。それがコークスなどの強力な火力で一気に炒める「炒」(チャオ〉という調理法の発達する清代になって、大バケします。タマネギのかわりにネギ使って、玉子で黄色くした「炒飯」(チャオファン/チャーハン)。
炒飯は、余りものの冷飯を使います。イスラムのピラフがもつご馳走性はしぼんでしまいましたが、サンスクリットのプラーカの本義にのっとっている、とはいえましょう。
それがヤキメシとして日本にも広まったわけです。やがてヤキメシは、ヨーロッパ経由のピラフとドッキングして、チキンやグリンピースを入れ、バターで炒めて黄色くした「日本風ピラフ」になります。ここまでくれば、インド人もびっくり。
満月通信「パエリャ・マーハートミヤ(パエリャの偉大さ)」も、併せてお読みください。
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