バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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【パエリャの偉大さ】伊藤武コラム



ひとり暮らしで米を炊くのは億劫なもの。ちょこっと炊いてもつまんないし、かといってたくさん炊いて置いておくと、この季節になるとすぐに臭ってくるし。
先日、スペイン料理屋でベリーダンスを踊る友人のお招きを受けてその店に行き、パエリャ鍋に入って出されたシーフード・パエリャをいただきました。そして、
「ああ、米のメシを食いたけりゃ、パエリャがあるではないか!」
と思いいたりました。

若いころのインドでのこと——
安宿で、石油コンロを使って自炊していると、同じ宿に泊まるヒッピー連中が、「オレにもなにか料理させろ、いっしょに食おうぜ」とやってきます。あるスペイン人が作ってくれたのがパエリャでした。
調理なんて、あきれるほどに簡単。アルミのターリー(おぼん)を鍋代わりにして、油を熱し、ニンニク、タマネギを炒め、一番安いコメを洗いもせずにぶちこみ……

さて、今回の「ちょこっとサンスクリット」に記したように、古代インドの「混ぜごはん」のプラーカがイスラム圏に伝えられて各国のピラフになり、インドには「炊き込みごはん」のプラーオになって、里帰りします。
ムガル時代(16〜19世紀)、各地のマハーラージャがこの米料理に執心することにより、プラーオは大進化をとげるのでした。レシピは複雑化し、プラーオ専用の土鍋がデザインされ、コメまでもがそれに合わせて品種改良されます。
こうした炊き込みごはんが、ムスリム、ヒンドゥーを問わず民間にひろまりました。菜食のヒンドゥー教徒は、肉のかわりにチーズやナッツをつかった精進のプラーオをつくります。
イスラム料理としてのピラフとコメの栽培は、9世紀にはモロッコ経由でスペインに伝わり、パエリャの原形が生まれたとされています。
しかし、インドのプラーオに比べ、その調理法のなんとゾンザイなこと!
インドでも日本でも、コメを炊く鍋は深い壺形のもの。水に対流が生まれ、ごはんがムラなく美味しく炊けるのですが、パエリャの鍋はフライパンのような浅いもの(この鍋を“パエリャ”という)。
それにオリーブ油を熱して、ニンニク、タマネギのみじん切りを炒め、コメ(ジャポニカ米でもインディカ米でも、どちらでもいい)を研ぎもせずにぶちこんで、具になるものといっしょに炒め、水を適当に注いで、塩して、サフランを散らして煮るだけ。
フタはあっほうがいいのだろうが、なくてもかまわない。煮ている途中で水が足りなくなれば、足してやればいいだけのこと。コメがやわらかくなって(ムラも味のうち)、水気がなくなり、底のほうに少し焦げ目がつけば出来上がり。
なんとアバウトなのでしょう!
それで不味ければあたり前なのですが、不思議に美味しい。そこに、パエリャという米料理のマーハートミヤ(偉大さ)があります。
スパニッシュ・ヒッピーのつくったパエリャは、オリーブ油のかわりにマスタード油、サフランのかわりにターメリック、肉のかわりにチーズを使ったものでした。お味はというと——
ううん……美味しいのですが、石が混ざっていて。インドの安いコメには、白い、コメと同じ大きさをした石が混ざっている——というか、混ぜられているのです。なんでも、そのコメ石を専用に作る職能カーストもあるとか(笑)。インドで安いコメを買うと、目を皿のようにして、石を取り除かなくてはなりませんから、炊くまでが大変です。少々余裕のある人は、高いコメを買わざるをえない。

そんなわけで、簡単につくれて美味しいパエリャは、わたしにとってもお気に入りの料理になったのですが、すっかり忘れていました。
むかし買ったまま、赤サビだらけになっていたパエリャ鍋を磨いて、最近ちょくちょく作っています。一人前でも美味しくできます。
まず、アサリをさっと煮て、殻が開いたら取り出し、その汁をスープにして、前述の方法でコメを煮る。九割がた出来上がった時点でシーフード・ミックス入れ、アサリももどし、鍋ごとガス台の魚焼きレンジに突っこみ、表面をぱりっとさせて完成。
プラーオのスパイスを入れてインド風とか、ココナッツミルクを入れてスリランカ風とか、アレンジもいろいろ楽しめます。
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