バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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【伊藤武のちょこっとサンスクリット語】Avalokiteśvara


前回は「シヴァ神の始まり」について見ました。
シヴァは、おシャカさまの在世期とさほど違(たが)わないころに編まれた『シュウェーターシュワタラ・ウパニシャッド』において、最高神に上りつめます。ちなみに『バガヴァッド・ギーター』の、クリシュナを至高神とする発想は、この『シュウェーターシュワタラ』の影響のもとに生まれたようです。
シヴァは大乗仏教の成立にも大きく関わりました。彼の慈悲深い相(すがた)を強調した仏教バージョンが、観音です。

観音は多くの異名でよばれますが、本名はアヴァローキテーシュワラ(Avalokiteśvara)。ava(下に/下を)-√lok(見る)の過去分詞-īśvara(自在者)と分析されます。
接頭辞avaに√tṝ(渡る)をつなぐと、アヴァターラ(avatāra)——すなわち、「下界に渡った(地上界に生まれた)神」という語が生まれます。
√lokは英語のlook(見る)とほとんど同じ。√lokを名詞化すると、ローカ(loka)。ローカは「世界」と理解されていますが、「見られたもの/認識されたもの」が原意のようです。
īśvaraは、「主/神」ですが、通常シヴァの異称の一部として用いられます。
すなわちアヴァローキテーシュワラは、「下界を見たシヴァ」と解することができます。
仏教の伝説によると、彼は、もとは悟りを求めるヨーガ行者でした。修行の効あって天界に生まれ変わるのですが、天から有情の苦しむ下界を見おろし、はらはらと涙されました。有情の苦しみをありありと看(み)てとれたからです。そして、
「われ、生きとし生けるものが仏性を得、涅槃に到るまで、下界(この世)にとどまれり」
というヴラタ(誓願)に立て、無数の歳月の間に何百何千の人びとの成就を助けたということです。

この話の元ネタは、『マハーバーラタ』などで語られる「青い喉のシヴァ」の神話と思われます。
神々と魔族が一致協力し、力を合わせ、乳海(原初の海)を攪拌しました。乳海から不死の霊薬アムリタを抽出するためです。ところが、最初に現れたのはアムリタとは正反対の、全生命を死滅させるハーラハラ(猛毒)でした。
天界(カイラーサ)から死にゆく生類を見たシヴァ神が慈悲の念を発し、乳海に下り、この猛毒を飲み干すのでした。けっか、世界を破滅から救ったのですが、さしものシヴァも毒の作用で喉を真っ青に染めてしまい、以後ニーラカンタ(Nīla-kaṇṭha、「青い喉の神」)と呼ばれるようになります。
仏教では、このニーラカンタとしてのシヴァをも逆に観音の化身とし、ニーラカンタ・アヴァローキテーシュワラ(青頸観音)と称しました。仏法の恩恵にあずかれないヒンドゥー教徒のために、観音がシヴァに変化(へんげ)したというわけです。
ニーラカンタのほかにも、ローケーシュワラ(loka-īśvara;世間王)、ヌリティエーシュワラ(nṛtya-īśvara;舞踊王)、シンハナーダ(siṃha-nāda;獅子吼)など、シヴァと観音は多くのアヴァターラ(変化身)を共有しています。ようするに、シヴァと観音は同じ神格と考えてよい、ということです。

観音は、漢訳仏教の世界ではなぜか女性とされてしまいますが、インド仏教にあってそれはあり得ません。なぜなら、アヴァローキテーシュワラは男性名詞であるからです。
しかし、彼の衆生救済する能力はシャクティ(śakti)と称される女性名詞です。この力は、プラジュニャーパーラミター(般若波羅蜜多仏母)、ターラー(多羅菩薩)という女性のホトケとして擬人化されました。
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