バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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【しもつきの満月通信】

バナナ妻

秋。みのりの季節。
インドでは、雨季が終わり、日々空が高くなるちょうど今ごろ(10~11月)。
ドゥルガー・プージャー、ディーワーリーといった収穫祭に由来する大祭が、高い密度と濃度をもって、くり広げられます。何日も何日も前から準備されて……
準備とは、たとえばベンガルやビハールのドゥルガー・プージャーでは、「女神さまの生き人形」づくり。町村のコミュニティのプライドをかけて、これに取り組みます。超ベッピンで、オッパイ大きく、スタイルよろしく、ちょっと太めで、等身大より大きいぐらいのドゥルガー女神さまを、粘土で作ります。もっともこれは、それ専用にやってるカースト(シュードラ)に任されます。コミュニティの趣向は、デザインに凝らされるのでしょう。
その工房を覗くと、妖しげなイロっぽいに満ちている。きれいな人の肌の色に塗られ、いろんな恰好をさせられた女神さまがズラリと居並んでいる。口には紅が刷(ふ)かれ、長いまつ毛に縁どられた目を、日本の少女漫画に描かれるそれのように輝かせている。
それが、みんなスッポンポンなのです。マネキンには違いないのですが、妙に息づいている。乳首にも紅が捺されている。
コミュニティは、裸の女神とその備品(女神の乗物であるトラや、敵役となる悪魔)を持ち帰り、さまざまに飾りつけます。赤いベナレス・シルクのサリー(もどき)を着せたり、金銀宝石のアクセサリー(もどき)を付けたり、たくさんの手にたくさんの武器を持たせたり、と。
そして、町村のあちこちに設えられた舞台のごとき祭壇に、
――トラに乗った女神さまが、水牛の悪魔の胴を三叉戟で串刺しにしている
神話のクライマックスとなるシーンが、ジオラマ仕立てに再現されています。ヌードの女神さまが焼きついている者の目には、彼女の砲弾のごとき乳房が、サリーの胸を引っちぎって、飛びこんできます。その御前で、にぎやかなお祭りが行われるのですが……。
お祭りのさまざまな催しの前に、霊入れ、つまり「女神さまの生き人形」に神霊を吹きこむ儀礼が行われます。その霊は、太古の、ヒンドゥー教の衣裳をはぎ取った裸の姿をしていました。
すなわち、舞台の脇に、1・5メートルほどに切られた若々しいバナナの茎が立てられている。「バナナ妻」と呼ばれる、ちょうど人間の女の胴ほどの太さのあるそれが、神霊のもともとのアーサナ(よりしろ)です。白いサリーが巻かれ、ベール(ミカンの一種)の2つの実がオッパイに見立てられ、豊穣を象徴するさまざまな植物の茎を編んだものをマーラー(花輪)やベルトにしています。
その前に土を入れた鉢が置かれ、大麦の芽がひょろひょろと緑の頭をもたげていました。そして、バラモンがその鉢を「人形」のそばに移し、その霊を籠らせて、ほんとうの「生き人形」にするためのプージャーを行うのでした。
「バナナ妻」こそが、ヒンドゥーの衣裳を着るまえの、ドゥルガー女神の真のアーサナでした。彼女のサリーからは、豊富な食=吉祥、の図が透けて見えます。
なお、「生き人形」や「バナナ妻」は翌日、ダンプの荷台に載せられて町をパレードした後、川に流されます。大麦の芽は、コミュニティに属する少女たちによって食されます。

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