バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

Entries

【伊藤武のちょこっとサンスクリット語】ガンダ・ドラヴィヤ gandha-dravya गन्धद्रव्य


インド料理がほんとうに身近なものになりました。マサラドーサなど20世紀にはレアであった南インド料理もあたり前のように食べられるようになったし、スパイスをそろえて本格的なインド料理をモノにしている方も多いはず。今回のサンスクリットは、スパイスに関するあれこれ。
スパイスの総称は、ガンダ・ドラヴィヤ(gandha-dravya)。ガンダは「香り」、ドラヴィヤは「実体」、つまりは「香料」です。

「スパイスの王様」ことコショウは、マリチャ(marica)。南インドのケーララが原産地ですから、ドラヴィダ語系のミラグ(miragu/miḷagu)がサンスクリット化した言葉と思われます。ケーララではラーマ王子が森を遍歴し魔王と戦う叙事詩が現実として進行中だったころから、コショウは栽培されていました。『ラーマーヤナ』には「塩と胡椒で食べる食べ物」のことが書かれてあり、これが調味料としての胡椒の記述の第一号とされています。
梵マリチャがさらに訛ったのが、ヒンディー語のミルチ(mirc)。ところが、ミルチはこの2、3百年のあいだに、新大陸原産の新しいスパイスであるトウガラシをさすようになってしまいました。現在では、本来のコショウはカーリー・ミルチ(黒胡椒)、サフェード・ミルチ(白胡椒)などと、色をあらわす形容詞を添えて言いわけています。英語で本来コショウを意味するペッパーがトウガラシをもさすようになり、ブラック・ペッパー(黒胡椒)、ホワイト・ペッパー(白胡椒)、レッド・ペッパー(赤唐辛子)などと呼んで区別しているのと同じ現象です。
サンスクリットではトウガラシは、コショウとの混同を避けるために、英chiliから借用したチッリー(cillī)を用いています。
英ペッパー(pepper)の語源は、梵ピッパリー(pippalī)。しかし、ピッパリーは真性のコショウではなく、ナガコショウ(長胡椒)です。古代ローマがケーララから大量の胡椒を輸入していたのは周知のとおりですが、大半はマリチャではなく、ピッパリーだったとか。ピッパリーは、沖縄で栽培されているヒハツ(畢撥)の語源にもなっています。もっとも沖縄のヒハツは、インドのピッパリーとは別種で、植物学的には「ヒハツモドキ」と称されます。

ショウガは、アールドラカ(ārdraka)。インダス文明時代から栽培されていた最古のスパイスのひとつです。アールドラは「湿った、生の」の意で、漢語の生薑(生姜)はこのアールドラカに由来するようです。つまりは、インドから中国に渡り、さらに日本に伝えられたスパイスということになりますが、野生種が未発見のため、原産地は特定されていません。
乾燥させたもの(乾薑/乾姜)は、ナーガラ(nāgara)という別の語で呼ばれます。ナーガラは「都会風」(<nagara都市)の意ですから、古代インドの都市部では保存のきくドライジンジャーが用いられていたことがわかります。
同じショウガ科のターメリックは、ハリドラー(haridrā)。ハリは「黄金色」、ドラーは「凝ったもの」ですから、これも意味の上では漢語の鬱金(うこん)と一致します。インダス文明時代から栽培されていたこと、原産地が特定されていないこともショウガと同じですが、食用スパイスとして広く普及するのは、ドライパウダーにする方法が確立する中世になってから。生のターメリックは、苦みが強く、食用には不向きだったのです。
しかも、中世の文献では、ターメリックは、しばしば、本来サフランを意味するクンクマ(kuṅkuma)の名で呼ばれています。サフランの代用として利用が始まったのでしょう。
真性のサフランは西アジアが原産。紀元前にアラブ商人によってインドに持ちこまれました。クンクマという語も「黄色」をあらわすアラビア語のクルクム(kurkum)のサンスクリット化です。このアラビア語がラテン語化したクルクマ(curcuma)は、現在はターメリックを意味する学名にもなっていますから、話はさらにややこしくなる。
ターメリック・パウダーに石灰とレモンの汁を混ぜると、化学変化を起こして真っ赤になります。それゆえ、インド女性が吉祥のしるしとして額に捺す赤い点もまたクンクマ(ヒンディー語ではクンクム)と呼ばれます。

今回は、コショウ(marica)、トウガラシ(cillī)、ナガコショウ(pippalī)、ショウガ(生はārdraka、ドライはnāgara)、ターメリック(haridrā)、サフラン(kuṅkuma)しか紹介することができませんでした。次回に続きます。
スポンサーサイト

Comment

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

左サイドMenu

プロフィール

インド作家_伊藤武(クルシー)

Author:インド作家_伊藤武(クルシー)
 
メルマガ『満月通信』のコラムを載せていきます。
 
講座案内等はこちらでお知らせしています。
http://malini.blog105.fc2.com/

お問い合わせはこちらまで。
yaj612@gmail.com

twitter

最新記事

最新トラックバック

右サイドメニュー

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR