バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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【伊藤武のかきおろしコラム】カレー粉はえらい



カレー粉。いっとき、「ありふれた、つまらぬヤツ」と見下していたのですが、最近「とんでもなく凄いヤツ」と敬意を新たにしております。
一人分のカレーをさっさと作るとき、スパイスをあれこれミックスすることが億劫になる。そんなとき、カレー粉は重宝します。キーマカレーを作るときも、スパイスが材料にすぐに絡んでくれます。
カレー炒飯やカレーうどんを作るときも、カレー粉はことのほか便利です。
そして、カレー粉は、炒飯やうどんなど、醤油の味とはすこぶる相性がよろしい。インドのスパイスミックス、ガランマサーラであれば、そうはいかない。スパイスのクスリ臭さと醤油の発酵臭がケンカしてしまう。が、カレー粉に独特の馥郁(ふくいく)とした香りが、キッチリと落としどころをつくってくれる。
カレー粉のフレーバーは、もはや印ではなく、和に属する、といってもいい——。

インド人は、何千年にもわたって、スパイスをミックスする技術をつちかってきました。
スパイスは料理の都度、そのまま、あるいは、ひかれたり、潰されたり、砕かれたりして、調合されます。スパイスに相当する梵語は“ガンダドラヴィヤ”、「香料」です。
中世、イスラム教徒がインドに侵入。かれらはインドのスパイス料理のとりこになってしまいました。しかし、さまざまなスパイスを調合して使うことは、トルコやペルシアの料理人には難しかった。
そこでかれらは、ユナニ(イスラム医学)の医者がカゼ薬や腹イタの薬を処方するのとまったく同じやりかたで、肉用、野菜用、魚用、豆用のスパイスミックスを調合したのでした。
まず、4〜10数種類のスパイスを空煎りして香りをひきだす。そして、できるだけ微細な粉にひき、密封して保存する。「空煎り(ガラム)した調味料(マサーラ)」で、“ガランマサーラ”。ペルシア語です。
スパイスを粉にして、ミックスするのは、ペルシアのイスラム教徒がインドに持ちこんだ文化。ガランマサーラは、それを端的にいい表わす言葉なのです。
近代、スパイスは、ムスリムに代わってインドを支配した英国人の心をも捕えました。
“カリー”は、「インドのスパイス料理」を表わす西洋人船乗りのスラングに始まる言葉です。
かれらは、故国に帰っても、カリーを食いたいと思いました。といって、スパイスをブレンドする技術は、やはりない。そこで、ガランマサーラをモデルにして、贔屓(ひいき)の料理人に何十種類ものスパイスの調合粉をつくらせたのです。それが、カリーパウダー?
いえいえ、この段階ではまだガランマサーラの域を越えません。ガランマサーラ→カリーパウダーの変換は、大自然が演出したマジックでした。
ガランマサーラもどきのスパイスミックスは、船に積みこまれました。そして英国に向かう長い航海、高温多湿の海──。スパイスミックスは、蒸れ、発酵し、個々のスパイスの角がとれ、混じりあい、独特の馥郁たる香りを魔法のように放射するカリーパウダーへと熟成していったのでした。
そして、そのカリーパウダーが、文明開化の扉を開いた日本にやってきたのです。
ガンダドラヴィヤ(梵語)→ガランマサーラ(ペルシア語)→カリーパウダー(英語)→カレー粉(日本語)。言葉の変遷にはドラマが秘められています。
先に述べたように、カレー粉とよばれるものがクスリ臭いガランマサーラであったなら、カレーはこれほど深く日本人の心を捕えることはなかったでしょう。クスリ臭さのかわりに発酵臭の、エキゾティックでありながら、味噌や醤油に通じる郷愁をともなったカレー粉であったからこそ、印の味が和の味になる、という第二のマジックが起こったことでした。

第三のマジック。カレーの効能がさまざまに聞こえてきます。いわく、
「カレーは体を温めるので、冷え性の人にもいい」
「カレーを食べると、脳内血流が約4%増加し、けっか頭が良くなる」
「カレーのスパイスには、体の抵抗力を高める作用があるため、風邪がひきにくくなる」
「カレーのスパイスは、ガンや認知症になるリスクをかなり減少させる」
「カレーのスパイスは、脳や体の交感神経を刺激して、人間をやる気モードにする」
「イチローも実践していた朝カレー」
これらは、インドのカリーではありません。日本風のカレーです。
カレー粉は、アーユルヴェーダの神様の、われら日本人への贈り物だったのかもしれません。
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