バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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ヨーギン yogin योिगन्【伊藤武のちょこっとサンスクリット語】



語尾に-inがつくと、「〜を有する、〜をする」という意味の形容詞、または男性名詞になります。ヤミン(yamin)であれば「yama(戒律)を有する、持戒者」、ダルミン(dharmin)は「dharma(法)を有する、法に忠実な、有徳者」。そして、ヨーギン(yogin)であれば「yoga(ヨーガ)を行ずる、ヨーガ行者」。
「〜を有する者/行なう者」が女性であれば、さらに-īを足して、女性名詞にすればよろしい。すなわち、ヤミンはヤミニー(yaminī)、ダルミンはダルミニー(dharminī)、ヨーギンはヨーギニー(yoginī)。ヨギーニという語はサンスクリットには存在しないので、ご注意ください。

さて、ヨーギン。ウパニシャッド最大の哲人ヤージュニャヴァルキヤや、クリシュナの説法(『バガヴァッド・ギーター』)を直接耳にする恩寵を得たアルジュナをさす渾名(エピテッド)としても用いられます。また、シヴァ神やヴィシュヌ神がヨーギンと呼ばれることもあります。
しかし、一般的にはヨーガ行者。とくに、『ヨーガ・スートラ』に従う者、またはハタ・ヨーガを行なうナータ派のサードゥをさします。ヒンディー語形のヨーギー(yogī)やジョーギー(jogī)になると、ナータ派サードゥにほぼ限定されるようです。この語には「超能力者」という含みもありますから、「ちょっと(かなり)怪しげな行者」という雰囲気もこめられているのでしょう。
では、ナータ以外の行者は何と呼ばれるかというと、スワーミ(svāmi、この場合は「上人」ぐらいのニュアンス)といったり、ババ(綴りはbābā)といったり……。
ババ、あるいはそれに「〜様」にあたる敬称のジーを添えたババジーは、よく知られていますよね。「おやじ、とっつぁん」ぐらいのニュアンスの、親しみをこめた呼びかたで、サードゥ以外の男性に対しても用いられます。
しかし、ババはインド起源の言葉ではありません。中世のイスラム勢力の拡大とともに広がったトルコ語です。インドに限らず、中央アジア、西アジアのイスラム圏一般で広く使われています。『千夜一夜物語』に登場するアリババは、「アリのとっつぁん」。イスラムの言葉がヒンドゥーの行者に対して用いられるのは、ちょっと面白いですね。
とまれ、ヨーギン(あるいはヨーギー、ジョーギー)は、すべてのヨーガ行者に対して用いられる語ではない、ということです。

ヨーギン以上に用法が難しいのは、女性形のヨーギニー(またはジョーギニー)。われわれがイメージするような「ヨーガをする女性」の意は、じつはこの語には含まれていません(サンスクリットの辞書にも載っていません)。
ヨーギニーは、ダーキニー(ḍākinī;「空を飛ぶ女」)の同義語で、「魔力を有する女性」すなわち魔女が第一義です。
中世前半(7〜12世紀)は、ヨーギニー=ダーキニーにスポットライトの当てられた時代でした。魔女である彼女たちは、男のタントラ行者のグルをつとめ、ハタ・ヨーガや後期密教の成立とも大きくかかわってきます。
タントラがさかんだったオリッサ州やマディヤ・プラデーシュ州には「六十四ヨーギニー寺院」がいくつか残っています。エロティックなお寺で知られるカジュラーホにもあります。
六十四ヨーギニーは、八母神(動物のイケニエが捧げられる恐ろしい女神たち)に仕えるそれぞれ8人の魔女たちの総称。ヨーギニー寺院は、周壁に沿って64の小さな祠が並ぶだけで、広い境内(というよりグラウンド)には屋根のある建物はありません。彼女たちは、夜中、空を飛んでそこにやって来て(だから屋根はじゃまになる)、妖しげな集会を開いたと伝えられています。
しかし、こんにちではヨーギニー(魔女)は忌み嫌われる存在です。田舎では、ヨーギニー呼ばわりされた女性が、リンチの対象になることも珍しくありません。げんに、現代のインドの法律に「魔女狩り禁止法」があるほどです。
したがって、ヨーガをなさっている女性が、インドに行って、「わたし、ヨーギニーよ」などと自己紹介するのは考えものです。意味不明のヨギーニとでも云っておいたほうが無難かもしれません。
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