バン・ボーラ!──伊藤武のなまけブログ

作家・伊藤武かきおろしーーーーー満月通信のコラム

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【しわすの満月通信】

ゴーラク・ダンダ

長い旅をしていた頃、広いインド亜大陸のあちこちで、ひとりの男のうわさ話を耳にしました。その男が、
「杖を地面に突き刺したら、井戸が湧いた。ほれ、あの井戸がそうじゃ」
「この空井戸に捨てられていたバラバラ死体を、繋ぎあわせて、生き返らせたのでござるよ」
「あの大岩、真ん中からみごとに真っ二つに割れておろう。念力でかち割ったのだ」
といっても、何十世代も前の人物らしいのですが、まだ生きているような口ぶりです。ヒマラヤでリビングスピリット(生霊?)になって暮らしているとか、ネパールの洞窟で何百年も瞑想しているとか。
奇跡のこと、永遠の禅定に住してことなど、弘法大師空海(こうぼうだいし・くうかい)を連想してしまいます。その男にちなんだヒンディー語の慣用句もたびたび耳にするようになりました。
――ゴーラク・ダンダー(Gorakh-dhandhā)
「途方もない仕事」「あらゆることに精通している人」「超人(スーパーマン)」というニュアンスらしいのですが、この言葉のもとになったゴーラク、サンスクリットではゴーラクシャなる人物が、
――ハタ・ヨーガの創始者である
と知ったとき、わたしは彼の信者、というかマニアックなファンになっていました。
そうして、上記のごときスーパーマンとしての伝説は少なからずコレクションしたものの、彼の肉声を伝える著作がない。彼自身はすぐれた著述家でもあり(この点も空海に似ている)、29のサンスクリット文献、40の俗語文献の著者とされているのですか、そのほとんどは椰子の葉っぱに刻まれたまま、どこぞの寺院や僧院の書庫に埋もれているのでしょう。本屋には出回らないし、内容は誰も知らない。
これは、つまり、ハタのオリジンが如何なるものか、誰にもわからない、ということです。ハタ・ヨーガのスタンダード(基本文献)として広く用いられている『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』は、ゴーラクの4、5百年ものちの作品なのだから。
しかし、ゴーラク・ファンになって30年もたった最近、ネットで彼の真筆『ゴーラクシャ・シャタカ』の原典が発表されました。このときのためにサンスクリットを学んできたのだ、とさえ思い、夢中で訳しました。そして、研究発表を兼ねて「ゴーラクシャ徹底解剖講座」を展開した、オタ、いやマニアとして至福のときを過ごさせていただいたこの1年も、大団円を迎えようとしています。
『ゴーラクシャ・シャタカ』は、その名のとおり100(シャタカ)の詩からなる短い作品ですが、ハタ・ヨーガの哲学と行法が圧縮されています。それは、一言でいえば、
――シヴァ神と女神を仏の力で合体させたもの
つまり、あらゆるタントラ(密教)に精通していたゴーラクは、シヴァ教と女神教と仏教のタントラを総合し、肉体と宇宙をトータルに見すえた、まったく新しいタイプの、壮大なスケールの密教、“ハタ・ヨーガ”を築きあげたのです。
まったく、ゴーラク・ダンダー、途方もない仕事といえるでしょう。
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